2025年11月16日日曜日

地力の源はセルロース

地力の源はセルロース


地力とは土壌が有している作物の生産能力のことです。地力が高いと根量が増えて、作物の栄養吸収力が高まり、作物は健康に育ち、収量も品質も向上します。作物自体が持っている免疫力が高まり、病害虫への抵抗能力が向上します。この地力の源はセルロースです。セルロースは植物の細胞壁をつくる主成分で、地球上で最も生産量が多い生体分子です。植物はセルロースできている自分の体を死んだ後に、土壌微生物へ提供し、土壌をつくってもらっています。植物は自分の生育が優勢になるように、自分の足元の土壌の環境を根量が多くなるようにコントロールしているのです。自然生態系の中では、植物による土壌へのセルロースの供給は、土壌微生物による消費よりも多く、セルロースは蓄積していき、土壌の作物生産能力である地力は増強されていきます。しかし、現代の工業的農業生産では、地力は減衰しやすく、地力の低下によって、作物の生産能力も低下し、収量も、品質も低下し、病害虫に対する抵抗力も低下してしまっています。そこで地力の源であるセルロースを土壌へ効果的に施用し、地力の回復をめざす技術が生み出されます。それが有機物を活用した農業=有機農業(オーガニック・ファーミング)です。

有機農産物は、化学肥料を使用しない、化学合成農薬を使用しない、環境負荷の少ない生産技術で栽培された農産物として、広く認知されていますが、有機農産物を生み出す有機農業の原点となるテーマは「有機物を施用することによる地力の回復」です。堆肥や緑肥を活用し、自然生態系の仕組みを利用して、土壌の地力を向上させて、品質・収量・病害虫抵抗能力を向上させるという農産物栽培技術なのです。

今回は①植物による自然生態系の中での土壌形成のメカニズムについて解説し、②地力とセルロースの関係について解説します。③地力の減衰がなぜ起きるのか?④地力の回復の必要性とその方法、⑤地力回復に堆肥が効果的な理由、そして⑥堆肥の弱点とその克服法についても解説します。有機農業の得意技は「土づくり」であり「地力の回復」そして「地力の増進」です。有機農業の導入として、まず、「地力の源はセルロース」と題して解説していきます。

目次  
【1】セルロースとは何か?
セルロースは植物の細胞壁の主成分です。植物の乾物重量の40%がセルロースであり、植物のバイオマス量は、生物の95.5%を占めていますので、セルロースは地球の生物がつくる最大の生物分子ということができます。セルロースには2つの巧みな仕掛けが施されています。
(1)セルロースはセルラーゼでしか分解できない
(2)セルロースは窒素を含んでいない
【2】「死んでいる土壌」と「生きている土壌」の根量の違い
有機物が多い土壌を「生きている土壌」と表現し、有機物が入っていない土壌を「死んでいる土壌」と表現します。土壌中の有機物は、土壌をどのように変化させのでしょうか?
【3】土壌は植物がつくったもの
生きていくための水の不足と乾燥、生きていくために必要不可欠な栄養成分が溶けていない雨水、過酷な陸上環境で、植物が生きていくために、植物は土壌をつくり保水力と保肥力を確保して、根が良く育つようにしました。
(1)植物は地球をテラフォーミングしている
(2)陸上生活の2大難問の克服
(3)土壌形成のメカニズム
(4)土壌団粒化のメカニズム
(5)団粒構造と毛管水
(6)有機酸による土壌ミネラルの溶解とキレート化
【4】地力の源はセルロース
セルロースは土壌微生物の働きで、水に溶ける状態になり、土壌を物理的・生物的・化学的に変化させます。これにより植物の根量が多くなるようになります。これが地力の本質です。
(1)セルロースによる土壌の物理性の改善と向上
(2)セルロースによる生物性の改善と向上
(3)セルロースによる化学性の改善と向上
【5】地力の減衰
現在、一般的な「工業的農業」では、肥料の施肥、機械による耕起、潅水などにより、作物の生育を促進させます。このことは、目には見えない土壌微生物も活性化させてしまい、地力の源であるセルロースの消費が激しくなり、地力の減衰が著しくなってしまいます。
(1)窒素は土壌微生物も活性化させセルロースの分解を促進する。
(2)現代の「工業的農業」は土壌のセルロース分解を促進し易い。
【6】地力の回復
土壌に足りない成分がセルロースであるならば、セルロースを土壌に施用し補えばよいだけのこと。有機物を活用した農業=有機農業(オーガニック・ファーミング)のはじまり。
【7】セルロースを堆肥化して施用した方が良い理由
セルロースを好気発酵させて、セルラーゼを有している微生物に加水分解させて、水に溶けるように加工することで、土壌の団粒構造を促進し、腐敗を防止し、有機酸によってミネラルの可溶化を促進することができます。
(1)水に溶けやすくすることで、土壌団粒化を促進します。
(2)発酵させることで堆肥の栄養成分を堆肥の発酵菌に占有させる。
【8】堆肥の弱点と克服法
堆肥施用によってもたらされる効果を知っておくことで、効果的な利用も可能になり、堆肥の弱点を知っておくことで、弱点に対する対処も可能となります。堆肥の弱点は「有機酸がミネラルを溶かしてしまうこと」と「堆肥の窒素は遅効性で緩やか過ぎること」の2点です。
(1)土壌ミネラルの消耗が激しいこと
(2)土壌分析と施肥設計技術
(3)堆肥由来の窒素は遅効性で、作物栽培の初期生育には効かないこと
(4)アミノ酸肥料で初期生育を補う
【9】現代の堆肥の問題点
現代の堆肥はセルロース不足が生じ、団粒構造の促進ができなかったり、強アルカリになってしまったり、地力回復や地力の増進ができず、堆肥を窒素・リン酸・カリウムの肥料として使用するしかない状態が起きています。



【1】セルロースとは何か?
セルロースは植物の細胞壁の主成分です。植物の乾物重量の40%がセルロースであり、植物のバイオマス量は、全生物の95.5%を占めていますので、セルロースは地球の生物がつくる最大の生物分子ということができます。植物によるセルロースの生産量は1年間で1,000億tにもなります。1,000億tはちょうど富士山と同じくらいの重さです。

セルロースはブドウ糖が500個~15,000個が鎖状につなげられて紐にしたものを、何本か束ねて結晶体にしたものです。光合成ができる植物は、ブドウ糖を大量に生産できます。その大量生産できるブドウ糖を活用して、セルロースをつくり、細胞壁に使用して、細胞を守る鎧として、また、体を支える外骨格としているのです。


上図は植物の細胞壁の構造を図解したものです。植物の細胞壁は、セルロースとペクチンでつくられています。セルロースはブドウ糖が500個~15,000個が鎖状につなげられて紐にしたものを、何本か束ねて結晶体にしたものです。ペクチンはセルロース結晶体とセルロース結晶体の間を埋めるゲル状物質です。ペクチンはガラクツロン酸という糖と酸の両方の性質をもつものを主成分に、セルロースと同じように鎖状につなげて紐にしたものです。ペクチン同士はカルシウムとホウ素によって架橋されています。

セルロースには2つの巧みな仕掛けが施されています。①セルラーゼでしか分解できない。➡セルラーゼをもっている生物は限定されている。②窒素を含んでいない。➡窒素がないと細菌は増殖できない。セルロースはエネルギーだけを供給している。

(1)セルロースはセルラーゼでしか分解できない


上図はセルロースとデンプンを比較したものです。セルロースもデンプンもブドウ糖を鎖状につなげてつくった紐です。違いはブドウ糖の6番目の炭素が角のように飛び出ている部分を、デンプンは同じ方向に向けてつなげ、セルロースは角が上に下にと互い違いになるようにつなげています。違いは、たった、これだけのことなのですが、動物のほとんどが、このセルロースを分解する酵素をもっておらず、セルロースを消化して栄養にすることができないのです。

わたしたちヒトもセルロースを分解する酵素セルラーゼをもっていません。わたしたちヒトがもっている酵素はアミラーゼというデンプンをブドウ糖に分解する酵素です。唾液の中に含まれていて、ご飯を噛めば噛むほど甘くなるのは、唾液のアミラーゼがデンプンを分解してブドウ糖にするからです。


上図はセルロースを分解できる酵素セルラーゼです。セルロースというブドウ糖の鎖は、ブドウ糖同士が脱水結合することでつながっています。この酵素セルラーゼは、水分子が脱水することで脱水結合している部分に水分子を加えてることで加水分解し、もとのブドウ糖にすることができます。

細菌、原生生物、カビの仲間の糸状菌、キノコの仲間はセルラーゼを持っていますが、動物でセルラーゼをもっているものは限られていて、線虫、ミミズ、貝類、カタツムリ、白アリの一部くらいです。昆虫はセルラーゼをもっていないため、植物の細胞壁を分解できません。分解できないということは、生きていくための栄養として吸収できないということです。地球上の生物のほとんどが、植物が光合成によって生産するブドウ糖を生命エネルギー源として生きています。ところがブドウ糖を原料に鎖につないだだけのセルロースは、その鎖を切って、ブドウ糖にして、栄養として吸収し、エネルギー源にできる生物は限られているのです。

海の中で進化してきた植物が陸上に進出したのは、5億年前と考えられています。植物を食べたい昆虫の先祖も、植物を追いかけて、同じく5億年前に陸上へ進出したと考えられています。食べたい昆虫と、食べられたくない植物の攻防は、5億年も続いているのです。植物にとって、セルロースの細胞壁は昆虫の食害から守る鎧になっています。

青虫もヨトウムシも芋虫も、植物の葉を食べています。セルロースの外壁は糞として排泄し、セルロースの鎧で守られている細胞のタンパク質を栄養として摂取しているのです。例外として、ゴキブリや白アリ、キクイムシなどは腸内にセルロースを分解する細菌を共生していて、腸内細菌にセルロースを分解してもらって、その分解物や腸内細菌の死骸を栄養として吸収しています。

セルラーゼは持っていないが、腸内細菌にセルロースを分解してもらって栄養を得る方法は、草食動物にも見られます。


上図は牛のセルロースの消化の仕組みを図解したものです。

牛、馬、ヤギ、ヒツジなどの草食動物は、草を食べて栄養にしています。しかし、セルロースを分解するセルラーゼはもっていません。草ばかりを食べている草食動物はどのように、草から栄養を得ているのでしょうか? これらの草食動物は胃腸の中にたくさんの腸内細菌を養っていて、その細菌のセルロース分解能力によって、セルロースから栄養を得ることができています。

牛は容量200L、収容量100㎏にもなる、非常に大きな胃をもっています。この胃は、そのまま発酵槽になっており、1gあたり100億個のバクテリア(細菌)と50万~100万個の原生生物が共生しています。この共生生物がセルラーゼを持っており、セルロースを分解することができます。セルロースは分解されて、水素、二酸化炭素、ギ酸、乳酸、コハク酸、ピルビン酸などがつくらえます。これらは有機酸生成菌によって、酢酸、プロビオン酸、酪酸、揮発性脂肪酸が作られ、これらが栄養として胃腸の壁から吸収されます。牛の生命エネルギーの60~70%が、草のセルロース由来の酢酸などの有機酸で賄われています。また、胃の中の微生物の死骸からアミノ酸やビタミンなどの生理活性物質も得ています。


上図は牛の胃の構造です。牛は4つの胃をもっており、1つ目の胃ルーメンが発酵槽となっており、胃の面積の8割を占めています。2番目の胃はレティキュラムは伸縮してポンプのような役割をしており、胃の中のものを食道や口に吐き戻し反芻させる役割を担っています。3番目の胃オマムスは消化できているものと消化が不十分なものを選別しています。消化が不十分なものは、2番目の胃へ戻し、消化ができているものは4番目の胃へ送ります。4番目の胃アバマムスは、胃酸を分泌するヒトの胃と同じような役割をするものです。母乳で育っている子牛の時には、胃の70%を占めていますが、生長すると8%ほどになります。


セルロースは、わたしたちヒトの胃腸では消化できません。消化できないので、当然のように栄養成分として吸収することもできません。よって長らく栄養素としては、考えられていませんでした。ところが、現在は、食物繊維は栄養素として認められています。これは、わたしたちの腸内には100兆匹もの腸内細菌が棲んでおり、この腸内細菌はセルロースを分解する能力があり、栄養とすることができているということがわかってきたからです。腸内細菌は、消化吸収を助けてくれるだけでなく、さまざまな生理活性物質を生産し、人体の健康に貢献してくれています。よって、健康を維持するためには、食物繊維も摂取しなければならないとなってきたのです。ヒトの細胞の総数は37兆個です。そこに100兆匹の腸内細菌が棲んでいるのです。その中には、本当に、ただの居候もいるようですが、さかざまな役割を担っているものもいると考えられています。


プレバイオティクスとは、有益な微生物の生長や活動を誘発する食品中の化合物のことです。

水溶性食物繊維は、コンニャク、大麦、ワカメ、昆布などで、血糖値の急激な上昇を抑え、コレステロールの吸収を抑え、善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やす役割があります。不溶性食物繊維は、大豆、ゴボウ、サツマイモなどで、水に溶けにくことで、胃腸で水分を吸収して膨張し、排便をよくします。水溶性食物繊維:不溶性食物繊維=2:1で摂取するのがよいとされています。

ヒトの腸内細菌は、草食動物の牛のようにセルロースを分解することに特化した腸内細菌を有していません。よって食物繊維で、腸内細菌に利用されているのは、セルロースではなく、ペクチンです。とはいえ、ヒトの腸内にも、セルロースを分解する細菌がいることは知られています。古代に生きていた人や狩猟採取民の腸内では、セルロースを分解する細菌が豊富に存在しており、都市生活を行う現代人の腸内では、少なくなってきているといわれています。

(2)セルロースは窒素を含んでいない
ブドウ糖が生物のエネルギー源となる利用は、炭素でできた骨格に水素イオンを蓄えているためです。細菌も動物も植物も、地球の生物は、みなリン酸にエネルギーを一時的に貯めることができるATP(アデノシン3リン酸)を利用し生命エネルギーを使用するところへ運んでいます。このATPにエネルギーを充填する酵素ATP合成酵素は、水素イオンで駆動しています。ブドウ糖はとても優れた水素イオン貯蔵庫なのです。セルロースはブドウ糖のみで構成されており、炭素と水素と酸素の3つの元素のみでつくられています。生物の体は核酸で形成されている遺伝子と遺伝子情報を基にアミノ酸を繋げてタンパク質を合成するリボソームからつくられており、生命活動=代謝を行うのはタンパク質が原料の酵素です。核酸とアミノ酸はどちらも窒素を含んでします。


上図はセルロースとタンパク質、それぞれを構成する元素の割合を比較したものです。タンパク質はアミノ酸を鎖状につないだもので、アミノ酸のアミノ基(NH₂)に窒素が含まれています。真核生物が採用しているアミノ酸は21種類あり、植物はヒトと同じく20種類のアミノ酸を原料にタンパク質をつくっています。20種類のアミノ酸には、硫黄を含んでいるものが2種類(メチオニン・システイン)あります。

窒素を含んでいないセルロースだけが大量にあっても、セルロースは窒素含んでいないため、セルロースだけでは、細菌は増殖することができません。空気中には窒素が気体としてたくさんありますが、この気体の窒素を使って生物の体の部品となる核酸やアミノ酸をつくることができる生物は限られています。現在、空気中の窒素ガスを直接活用して、生物の体をつくる原料にできる酵素はニトロゲナーゼだけです。細菌や古細菌にはニトロゲナーゼを持っているものは多くいますが、動物と植物を含む真核生物でニトロゲナーゼを持っているものはいません。植物によるセルロースの供給量が非常に多いのに対し、窒素固定量は少なく、自然生態系の中では、常に生物が利用できる窒素が切れていて、細菌の増殖も窒素切れによって停止してしまます。窒素が少ないことで、セルロースはとことん分解されて、すべてが水と二酸化炭素になってしまうのではなく、土壌中に蓄積していくのです。

【2】「生きている土壌」と「死んでいる土壌」の根量の違い
有機物が多い土壌を「生きている土壌」と表現し、有機物が入っていない土壌を「死んでいる土壌」と表現します。土壌中の有機物は、土壌をどのように変化させのでしょうか?


上図(左)は有機物が入っていない土壌です。有機物は土壌微生物のエサとなります。有機物が入っていない土壌では、土壌微生物は食べ物がないので、動けません土壌微生物が動けないため、土壌を攪乱するものはなく、土壌は死んだように静かです。よって有機物の入っていない土壌を「死んでいる土壌」と表現します。

上図(右)は有機物が入っている土壌です。有機物は土壌微生物のエサとなり、エネルギー源となるため、土壌微微生物が旺盛に活動しています。土壌微微生物によって土壌は攪乱され、動かされているので、有機物が入っている土壌を「生きている土壌」と表現します。

上図(左)の有機物が入っていない「死んでいる土壌」に雨が降ると、土壌を形成している粒子は雨水の重さで押しつぶされて、土壌粒子間の隙間は締め付けられてつぶれていき、どんどん小さくなっていきます。雨が降るたびに固く固く締まっていきます。固い土壌では植物の根も伸びにくく、分岐も少なく、細かい根が出ないため、全体的に根量は少なくなってしまいます。また、根を伸ばしても、雨が降れば表層は水浸しになり、乾くとカチカチになるため、この環境の変化に耐えらえず根が切れたり、死んでしまったりします。

上図(右)の有機物が入っている「生きている土壌」に、雨が降ると、土壌微生物のエサとなることで、分解され、水溶化した有機物が雨水に溶けて、土壌粒子の間隙に浸みていきます。土壌微生物の中には、有機物を分解して二酸化炭素を発生させるものがおり、発生するガスで土壌粒子は内側から膨張粉砕されて、夜になって温度が下がると、液体だった有機物は糊状物質になり、土壌の粒子を集めて球形に収縮し、団粒構造を形成します。上図(左)で青色の土壌粒子を、まとめている赤茶色が糊状物質です。土壌が団粒化することで、土壌中には間隙が多くでき、フカフカの土壌になっていきます。そして団粒構造の間隙には、空気と水分が適度に保持されるために、植物の根は水分と水に溶け出してきた栄養と呼吸のための酸素を得やすくなるため、大いに発達し、根自体が太くなり、分岐も多くなり、細い根がたくさん出て、さらに根の先端では髪の毛ほどの根毛が無数に出ます。全体的に根量が多くなり、根が土壌をしっかりつかんでいる感じになります。

【3】土壌は植物がつくったもの
生きていくための水の不足と乾燥、生きていくために必要不可欠な栄養成分が溶けていない雨水、過酷な陸上環境で、植物が生きていくために、植物は土壌をつくり保水力と保肥力を確保して、根が良く育つようにしました。

(1)植物は地球をテラフォーミングしている
生命の宿る惑星=地球。その地球の生物を重さで比べると、植物の重さは450Gtで、全生物の95.5%にもなります。植物以外のすべての動物と微生物の重さをすべて合わせても、21Gtで、全生物の4.5%にしかなりません。

生命の宿る惑星=地球の生物の王者は、圧倒的な質量を誇る植物です。植物がこれほどまでに圧倒的な割合を占めることができているのは、植物が葉緑体をもっており、光合成を行なうことができ、生命エネルギーの源であるブドウ糖を自ら生産できるためです。植物以外の、光合成をできない生物は、植物が生産したブドウ糖をエネルギー源に生きています。植物が基盤であり主で、動物は植物に従属して生きているのです。現在の地球の生物がつくる生態系は、植物がつくるブドウ糖に支えられています。地球は植物によってテラフォーミング(惑星環境改造)された惑星ということができます。

植物の地球での役割を整理してみましょう。①植物は、地球の生命が生きていくためのエネルギー源であるブドウ糖を生産し供給しています。②酸素をつくり多細胞生物である真核生物の繁栄を支えています。光合成の副産物として酸素が作られます。ミトコンドリアをもっている真核生物は、酸素呼吸をすることによって非常に大きなエネルギーを作り出し利用することができています。逆に、大きなエネルギーを必要とする多細胞生物は、酸素がないと生きていけないほどです。③酸素は、有害な紫外線を防ぐオゾン層をつくっています。オゾン層によって紫外線が遮断されることで、生物は陸上でも生きていけるようになりました。④土壌も植物が陸上で生きていくために必要となってつくったものです。海の中で進化した植物が陸上に進出したのは、化石などの研究から約5億年前頃と考えらえています。

(2)陸上生活の2大難問の克服

陸上は、植物が生きていくには、とても過酷な環境です。海の中と違い、陸上は、①水分の確保が困難です。雨は降りますが、岩石が砕けたものだけでできている大地には、保水力がなく、雨が降れば水浸しで、乾けばカチカチになってしまいます。表層に溜まった水は、水自体の重さで、岩石が砕けた粒子でできた大地を押しつぶし、粒子間の間隙を無くしてしまいます。これにより大地に水が浸透していくことはなく、雨が降れば洪水、乾けば砂漠といった過酷な環境となってしまいます。②生きていくために必要なミネラルの確保も困難です。海の中では、海水に溶けていた栄養成分を、必要に応じて選択的に吸収すればよいだけだったのですが、陸上では、水に溶けているミネラルがほとんどありません。植物は根を発達させて、根から根酸や水素イオンを分泌して、岩石の粒子を、まるで飴をなめるように、じわじわと溶かしてミネラルを得ています。植物は葉緑体にて、太陽光と二酸化炭素と水があれば光合成を行ない生きていくためのエネルギー源であるブドウ糖を自ら生産できますが、肝心要の光合成を行なうための葉緑体自体をつくるためには、窒素と、マグネシウム、リン酸、硫黄、鉄、マンガン、銅、亜鉛、カルシウム、塩素などミネラル栄養成分が必要です。窒素は空気中に窒素ガスが豊富にありますが、植物が利用できるのは、水に溶けた状態の反応性窒素(硝酸、亜硝酸、アンモニア、アミノ酸)のみです。植物は、葉面からもいくらかは栄養成分を吸収できますが、大気中にも雨にも、栄養成分は溶けていません。植物は、二酸化炭素以外は、すべて根から水に溶けた状態のものを吸収する必要があるのです。

植物が、現在、圧倒的な地上の王者となるまでに発展することができたのは、①水不足、②ミネラル不足という陸上生活の2大困難を克服することができたためです。植物は、この陸上生活の2大難問を解決するための手法として、土壌を形成しました。植物にとって、一番の得意技は光合成によってブドウ用を生産することです。大量に生産できるブドウ糖でセルロースを大量に生産し、それを土壌微生物に供給し、分解してもらうことで、団粒構造という保水力と保肥力がある土壌を形成したのです。

(3)土壌形成のメカニズム

自然生態系の中で土壌が形成されてく過程を解説します。岩石が砕けただけでは、土壌は形成されません。岩石が砕けただけでは、砂や粘土は形成されますが、植物の生育を助ける土壌ではありません。土壌が形成されるためには、セルロースが混じって、土壌微生物の活動によって、セルロースが分解されていくことが必要です。

①溶岩が流れたり、火山灰が降りつもたりして、新しい大地ができます。②固い岩石も内部に含まれている水分の膨張収縮によって、またはカリウムなどが水に溶け出すことで、長い時間の中で割れて砕けていきます。いわゆる風化です。③新しい大地に、はじめに棲み始めるのは、コケや地衣類です。地衣類は藍藻(藍色細菌)とカビ(糸状菌)との共生生物です。光合成を行なう藍藻(藍色細菌)からブドウ糖の供給を受けたカビ(糸状菌)は岩石を溶かす有機酸をつくって、岩石を溶かして、ミネラル栄養を得て、藍藻(藍色細菌)に供給しています。コケや地衣類の死骸が岩石の砕けたものに混じって、④5㎜の土壌が形成されると、イネ科の草が生え始めます。春の暖かい雨で、一斉に発芽し、夏の強い日差しを受けて、旺盛に生育し、しかし、寒い冬には耐えられないので、秋にたくさんの種子をつくって、枯れて、大地に倒れます。イネ科の草の死骸が岩石の砕けたものに混じって、⑤5㎝の厚みの土壌が形成されると、木が生え始め、次第に森になっていきます。森が形成されるには雨量が必要で、年間降水量が1000㎜以下の場合は、木が育たたず草原になります。降水量が1000㎜を超える地域で、森が形成されていく理由は、光合成には光が必要なので、光を取り合う競争によって、より高い位置をとった植物が勝ち残るからです。熱帯雨林のフタバガキは60mもの高さになり天を覆うように葉を茂られてします。そして、森の林床には、落ち葉が積もり、その落ち葉が土壌になっていきます。

植物の光合成量は、年間降水量が多くなるほど、年間平均気温が高いほど多くなります。熱帯雨林では、光合成量が多くなるため、面積あたりの森の炭素貯蔵量も多くなります。熱帯雨林では、温度が高く、雨も多いので、落ち葉の分解も早く、土壌炭素の貯蔵割合も少なくなります。熱帯雨林の林床には、膨大な量のアリが生息していて、落ち葉の分解を促進しています。逆に針葉樹林では、気温が低いため、落ち葉の分解も遅く、生きている植物の量よりも、林床の落ち葉の蓄積量の方が多くなり、土壌炭素の貯蔵も多くなります。

自然生態系の中では、土壌微生物によるセルロースの分解による消費よりも、植物によるセルロースの土壌への供給の方が多く、土壌にはセルロース由来の炭素が溜まっていくことになります。土壌の炭素貯留量は非常に多く、総量は1兆5000億t~2兆tで、これは大気中の炭素の2倍、植物に含まれている炭素の3倍もの量になります。土壌中の炭素の内、45~60%にあたる9000億tが表層から30~40㎝にあると推測されています。

2015年の気候変動枠組み条約第1回締約国会議(COP21)において、会議開催国となったフランス政府から提案された「4パーミルイニシアティブ」は、土壌の炭素含有量を0.4%増やすことで、化石燃料を燃やすことによって排出されている二酸化炭素を相殺できるとうものでした。人間の経済活動が1年間に排出する二酸化炭素はおよそ100億tです。これから、植物が光合成の原料として1年間に吸収する二酸化炭素の量57億tを差し引いた残りは、43億tです。土壌の表層(30~40㎝)に蓄えられている炭素量の9000億tに対する人間活動が1年間に増やしている二酸化炭素量43億tは0.4%に当たります。この0.4%という数値の根拠は、土壌の保護を長年に渡り訴えてきたアメリカのオハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授らの研究が元になっています。

上図(左)は、農林水産省による日本の土壌別の土壌炭素貯留と土壌の二酸化炭素排出量を調べたものです。すでに炭素をたくさん含んでいる黒ボク土は、土壌の炭素増加は少ないですが、炭素の含有量が少ない灰色低地土では、土壌の炭素増加量が多くなります。

(4)土壌団粒化のメカニズム
植物は、セルロースを大量に生産し、生きている時は、細胞を守る鎧のように使用し、死後は、土壌微生物に提供して土壌形成をしてもらっています。土壌微生物はセルロースを加水分解し、糖を得ることで、生きるためのエネルギー源を得ることができます。セルロースは、糖に分解されることで、水に溶けやすくなっていきます。セルロースはデンプンと同じくブドウ糖を鎖状に脱水結合させてつくられた炭水化物です。分解酵素によって加水分解して、セルロースの長い鎖をところどころ切ることで、デンプンが主成分のお米をつぶして糊をつくるように、セルロースも糊状物質になります。水にとけて岩石の砕けた粒子の隙間に浸み込み、岩石の砕けた粒子同士をくっつけて収縮し、球状にまとめ上げます。これにより団粒構造という間隙の多い土壌が形成されるのです。この団粒構造が形成されることで、団粒構造の間隙に水分と空気が適度に保持することができ、土壌は保水力と保肥力を得ることができます。これにより植物の根量が増えて、植物の生育を助けるものになります。植物は、陸上生活の2大難題を、土壌微生物にセルロースを供給することで、団粒構造をつくることで解決したのです。

上図は、土壌が団粒構造になるメカニズムを図解したものです。①セルロースは土壌微生物のよって、分解されて糖や有機酸になっていきます。②雨が降ると、水に溶けて、土壌粒子の間隙に浸み込んでいきます。③糖や有機酸は、さらに分解されて二酸化炭素ガスを発生させ、ガスの発生による膨張圧力で、土壌粒子はバラバラに粉砕されます。④夜になり温度が下がると、液体だった糖や有機酸は糊のようになり、収縮しはじめます。これにより粉砕されていた土壌粒子同士を寄せ集めながら凝集することで、糖や有機酸が糊のような働きをして、土壌粒子を球状にまとめ上げ、団粒構造が形成されます。

団粒構造が形成されることで、土壌にはたくさんの間隙ができます。この間隙は多い時には、体積の40%にもなります。この間隙に適度に水分と空気が保持されて、土壌はフカフカになります。

(5)団粒構造と毛管水

植物の根が水を吸収する力は、葉の気孔の蒸散力に依存しています。光合成を行なうために常に太陽光を受け止め続けている葉は、太陽光で熱せられています。よって植物は気孔を開いて、体内の水を大気中に蒸発させて、気化熱によって葉を冷やしています。水分子同士には、お互いに引っ付こうとする凝集力が働いています。植物体内は水で満たされていて、植物の表皮は乾燥を防ぐために爪と同じ成分のクチクラ層によって覆われています。大気に触れる部分は気孔だけになっています。気孔が開き、気孔から蒸発した水の分だけ、葉の水分は減り、その分を根から吸収しているのです。気孔の蒸散力は洗濯物が乾くのと同じ原理で、乾いた空気に水分が吸収されることで起こります。

団粒構造の土壌には3種類の水が生じます。①吸着水は、土壌粒子の表面に、強い表面張力によって、へばりついている水、表面に吸着している水です。②毛管水は、団粒構造の間隙に、弱い表面張力によって、毛細管現象が生じて、間隙にひっかかっている水です。③重力水は、水自体の重さによって、下方向へ間隙を落ちていく水です。植物が吸収できる水は、②の毛管水のみとなります。植物の根の吸水力は、葉の気孔の蒸散力によって生じているため、それほど強くありません。よって、土壌粒子の表面に強い表面張力で吸着している水(①の吸着水)を、引きはがして吸収することはできません。土壌粒子と根が水を綱引きした場合、圧倒的に土壌粒子が水を引っ張る力の方が強いのです。③の重力水は、雨が降ったり、潅水したりすることで、一時的に土壌に生じる水ですが、短時間で、根が届かいないほどの下方へ落ちてしまうので、根はこの重力水を十分には吸収でいません。団粒構造の間隙は、多く、間隔が絶妙で、毛管水をたくさん蓄えることができます。

(6)有機酸による土壌ミネラルの溶解とキレート化


植物の根は根酸と呼ばれる酸を土壌中へ分泌し、土壌粒子からミネラル栄養成分を溶かし出すことができます。植物は光合成で生産したブドウ糖の約10%を土壌へ注ぎこんで、土壌中からミネラル栄養成分を得ようとしています。根酸は、①水素イオン、②有機酸、③アミノ酸、④核酸やプリン塩基、⑤糖、⑥酵素など、さまざまな物質が含まれています。



上図(右)は、根の先端の構造を図解したものです。①根の先端には、盛んに細胞分裂を行っている生長点があります。新しい細胞がつくられることで、根が伸びます。②未到達の土壌に達した根は、生長帯から盛んに根酸を出して、土壌を溶かします。③溶かしたミネラル栄養成分は根毛で吸収されます。根毛は表皮の細胞が風船のように膨らんだもので、1つの毛は1つの細胞でできています。表面積を大きくすることで、吸収し易くしています。根毛はムシラーゲとよばれる粘膜で保護されています。

上図(左)は根酸として分泌される物質の示性式です。根酸の糖、有機酸、アミノ酸は、みなカルボキシル基(COOH)をもっています。このCOOHから水素イオン(H⁺)が外れることで、酸素(O⁻)が活性化し、ミネラルをくっつけることができる仕組みになっています。これをキレート作用とよびます。



キレートとは、ギリシャ語で「カニのハサミ」の意味で、カニのハサミがミネラルを挟み込み、つまむように、糖や有機酸のカルボキシル基は、ミネラルとくっつくことができます。糖や有機酸のカルボキシル基がミネラルをくっつけた状態でも水にとけた状態を保ち続けることができます。土壌ミネラルを溶かして水に溶ける状態のイオンにしただけでは、酸素と化合して、酸化し、サビてしまって水に溶けにくい状態になってしまいます。


植物はミネラル栄養成分を得るために、根酸を出すという「自力」だけでなく、セルロースを土壌微生物に提供し、土壌微生物にも、糖や有機酸をつくってもらうという「他力」も活用して、土壌中の根が吸収しやすい水に溶けた状態のミネラル栄養成分を増やしているのです。土壌微生物も、生きていくためにはミネラル栄養成分が必要です。土壌微生物も、土壌からミネラル栄養成分を溶かし出すために、さまざま有機酸を分泌しています。植物の根と、土壌微生物は共に、さまざまな酸をつくって、土壌を溶かし、有機酸によってミネラルをキレート化しているのです。

【4】地力の源はセルロース
セルロースは土壌微生物の働きで、水に溶ける状態になり、土壌を物理的・生物的・化学的に変化させます。これにより植物の根量が多くなるようになります。これが地力の本質です。

土壌が有している作物生産能力のことを「地力」といいます。土壌はセルロースによって維持されているため、土壌の地力の源もセルロースであるということができます。

上図は地力の本質について、土壌の物理性、土壌の生物性、土壌の化学性の3つの観点から解説したものです。単純に土壌に含まれているセルロースの量が多くなれば、なるほど地力は向上していきます。だだし、セルロースが地力になるためには、セルロースが土壌微生物によって分解されて、水に溶ける状態になることが必要です。水に溶けない場合は、セルロースも、岩石の砕けた粒子と同じで、土壌に混じっているだけで、土壌に変化をもたらしません。

地力の向上は、まず、セルロースが土壌微生物に分解されて、水溶性になり、土壌に溶け出すことではじまります。セルロースが水溶性になり土壌粒子の間隙に浸みていくこと、糊状になったセルロースが土壌粒子を凝集し、収縮することで土壌の団粒構造が形成されていきます。

①第一段階は、水溶性になったセルロールによる土壌の物理性の改変による地力向上です。そして、②第二段階は、セルロースをエネルギー源にする微生物の活動による土壌の生物性の改変による地力の向上です。土壌が団粒構造になることで、土壌中には水分と空気が適度に保たれ、酸素が多い好気状態となるため、セルロースは嫌気状態で腐敗して有毒な腐敗物質や細菌性毒素が生産されことなく、セルロースは発酵菌によって、糖や有機酸に分解されていき、植物の根を痛めません。③第三段階は、セルロースが分解されてつくられる糖や有機酸、そして微生物がつくるさまざまな生理活性物質による土壌の化学性の改変による地力の向上です。物理性・生物性・化学性の3つには改善・向上していく順番があり、上図のように、物理性が必ず土台となる三段ピラミットとなります。

(1)セルロースによる土壌の物理性の改善と向上

土壌に含まれいるセルロースが多いほど、土壌はフカフカの団粒構造になります。団粒構造は間隙が多く、水分と空気がほどよく存在するために、栄養成分と酸素が、根の先端の生長点に供給されて、細胞分裂が活発になり、太い根から多くの細い根が分岐して、さらに細い根の先端付近には、栄養成分を吸収するための根毛が生えるため、根量が多くなり、根がしっかり土壌をつかむようになります。根量が多くなることで栄養吸収が良くなり、植物の生育は旺盛になります。

また、団粒構造の隙間には、植物の根がストレスなく吸収できる毛管水が生じて保水力を高めると同時に、必要以上の水は間隙によって下方へ排水してくれます。土壌の間隙に留まっている毛管水には、土壌中の栄養成分がじわじわと溶け出してきて、これを作物が吸収するため、作物の栄養状態は良くなり、これによっても、植物の生育が旺盛になります。

(2)セルロースによる生物性の改善と向上

セルロースを生命エネルギー源として土壌微生物の活動が活発になると、土壌微生物の遺骸からは、さまざまな生理活性物質(ビタミン、核酸、アミノ酸、酵素、ホルモン、ミネラルなど)が土壌へ供給されます。これらは水に溶けやすいため、作物の根が吸収し易く、作物の生育を助けます。

団粒構造を維持しているのは、微生物によって分解されてつくられた糊状物質です。この糊状物質には、セルロースを分解した微生物も含まれています。団粒構造を維持している糊状物質は、常に微生物によって分解されており、やがて、すべて二酸化炭素と水になって土壌から失われていきます。細菌は、エサとなる有機物に取り着いたら、周囲に毒素を分泌して他の細菌が近寄れないようにし、エサとなる有機物を占有します。土壌が団粒構造になることで、その間隙には水分と空気が適度の保たれることで、団粒構造の土壌は、酸素を含んでいる好気的な環境となります。酸素が多い環境では、腐敗物質をつくる細菌や、細菌性毒素を分泌する細菌は活動しにくく、いわゆる発酵菌が優勢になります。発酵菌も毒素を分泌して有機物を占有するのですが、その毒素が、動物や植物にとっては、毒とならない物質であるため、腐敗と区別して発酵と呼んでいます。枯草菌やバチルス菌と呼ばれる納豆菌の仲間が分泌する毒素は、セルロースを分解する酵素セルラーゼと、タンパク質を分解する酵素プロテアーゼです。動物や植物は、納豆菌よりもはるかに大きな生物なので、体が溶かされることはありませんが、細菌同士では、かなり強力な毒素となります。さらに納豆菌は、タンパク質をアミノ酸に分解し、他の細菌が利用できないように、グルタミン酸を鎖につないでポリグルタミンにしてしまいます。納豆の糸を引くネバネバ物質です。酵母菌は、嫌気状態でアルコールを生産します。乳酸菌は乳酸や酢酸を生産します。

上図は微生物による発酵と腐敗について解説したものです。発酵と腐敗の違いは、食べられるか?食べられないか?です。発酵によってつくられた発酵物は食べられますが、腐敗によってつくられた腐敗物は食べられません。自然生態系の中では、腐敗することが、ごく自然です。エサとなる有機物に取り着いた細菌は有機物を占有するために、周囲に毒素を分泌して、毒素のバリアをつくります。発酵も腐敗も、毒素を分泌することは同じですが、人間にとって、その毒が毒として人体を害さないもの、効かないものを発酵と呼び、毒素が生命を害するものを腐敗と呼んでいます。

発酵とは、有機物を再利用可能な形に丁寧に分解することです。発酵によってできた発酵物は、他の生物も利用が可能です。発酵は上図に示したように限られています。酵母菌によるアルコール発酵(酵母菌は細菌でなく単細胞の真核生物です)。乳酸菌による乳酸発酵(細菌の種族を超えて、乳酸を分泌するものが乳酸菌とよばれています)。酪酸菌による酪酸発酵。酢酸菌による酢酸発酵。納豆菌などによるアミノ酸発酵です。酵母菌がつくるアルコールも、乳酸菌がつくる乳酸も、細菌同士なら、猛毒です。アルコールに殺菌作用があることは周知のことです。乳酸はpHを4以下まで下げるので、他の細菌は活動ができなくなります。

腐敗は、自然生態系の中ではごく普通のことです。どんな食べ物でも、人間が何らかの加工(環境制御)を加えない限り、放置したら腐ってしまいます。これは、自然生態系の中では競争が激しいため、再利用なんかは考える余地もなく、とにかく短時間で栄養にしなけれなならないので、でたらめに分解されていきます。そうしてできた残骸、再利用不可能な物質を腐敗物と呼んでいます。腐敗物は、硝酸、二酸化炭素、水といった無機物にまで分解されていきます。細菌がつくる細菌性毒素も、有機物なので、酸素と化合して酸化することで、壊れて、硝酸、二酸化炭素、水といった無害なものになっていきます。

腐敗菌の多くが、酸素が苦手で、嫌気的な環境を好みます。団粒構造の間隙には空気が多く、好気的な環境が保たれているため、発酵菌が優勢になり、腐敗菌が繁殖しにくい環境になっています。

団粒構造の間隙はカビ(糸状菌)やキノコ菌に占有されることが多く、10aの畑の土壌には、約700㎏の生物が生息しており、その内の70%(490㎏)はカビになります。生息数としては細菌の方が圧倒的に多いのですが、生物質量で換算すると25%ほどになります。残りの5%は線虫、ミミズ、ダニ、トビムシ、原生生物などの土壌動物です。カビは、人体にも害を与える毒素マイコトキシンをもっています。現在、アスペルギルス・ペニシリウム・フザリュウムの3つの属で、約300種類ほどが発見されています。このカビ毒は熱分解されにくく、食品中に残留し健康被害をもたらすこともあります。完璧に除去することも難しく、食品の安全基準としても「リスクを抑え基準以上の含有で廃棄される穀物を抑制し飢餓を発生させないための値」が設けられています。完全除去は、難しいので、人体に悪影響がない範囲内での残留は認めらえています。

放線菌は細菌の一種です。カビが多い環境では、芽胞になって眠っています。カビの勢力が低下すると発芽して、毒素として抗生物質を分泌して有機物を占有します。結核の治療薬のストレプトマイシンも放線菌から発見されました。抗生物質を分泌するため、放線菌が優勢になると、今度はカビが抑え込まれてしまい、団粒構造の間隙は放線菌が優勢になります。放線菌は昆虫の外骨格に含まれているキチン質を分解する酵素キチナーゼを分泌し、土壌中で昆虫などの死骸を分解する役割を担っています。放線菌は粘菌のように、集団に役割分担があり、水分が多い方へ栄養を吸収するために根のような形状で広がっていき、空気の多い方へ、胞子を飛ばすために花のようなものをつくります。水分と空気が半々で存在する団粒構造の間隙は放線菌にとっては最適な生育環境と言えます。


上図は、有機栽培と慣行栽培の土壌の生物量を比較したものです。セルロースが多く地力が高い土壌と、セルロースが少なく地力が低い土壌の土壌微生物量を比較したものの一例として取り上げます。エサの量が土壌微生物の量を決めるため、土壌に含まれているセルロースの量が多いほど、土壌の微生物量は増えます。上図では、有機栽培と慣行栽培との、微生物量の差は36.87倍にもなっています。

糸状菌(カビ)は作物の病気の原因にもなりますので、土壌微生物に占める糸状菌(カビ)の数と、細菌や放線菌の数を比較して、糸状菌よりも、細菌や放線菌が多いほど、病気が発生しにくい土壌であるとうことができます。慣行栽培圃場はの細菌:糸状菌(カビ)=41:1、放線菌:糸状菌(カビ)=6:1でした。これに対し有機栽培圃場の細菌:糸状菌(カビ)=593:1、放線菌:糸状菌(カビ)=46:1と、糸状菌(カビ)の数を圧倒する数の細菌と放線菌が生息していることを示しています。一般的に、細菌:糸状菌(カビ)=100:1よりも数値が大きいと、糸状菌(カビ)が原因の病気は発生しにくいといわれています。

圃場の土壌の中で、カビのほとんどは死んだ植物の残渣を分解する腐生性のカビです。しかし、カビは植物の細胞を守る鎧でもあるセルロースを溶かすセルラーゼをもっており、カビは細菌に比べて体が大きく植物の根の栄養を吸収する根毛の部分を食害して、根の栄養吸収を妨げることもあります。少しでも害があるからという理由で、カビを土壌から全滅させることは非常に困難です。よって植物に害を与えないレベルに生息数を減らしたいという数値が、細菌:糸状菌(カビ)=100:1よりも数値が大きく、細菌数がカビ数よりも多いという状態です。土壌にセルロースが増えれば、カビも増殖します。しかし、そのカビ数を上回る細菌の増殖があれば、カビは多くても、作物への害はでないということになります。

(3)セルロースによる化学性の改善と向上

セルロースが分解されてできた糖や有機酸と、土壌微生物がつくる有機酸によって、土壌の粒子からミネラルが溶かし出されて、さらに、糖や有機酸のカルボキシル基(COOH)はミネラルをキレート化して、ミネラルの酸化を防ぎ、水に溶けた状態を保持します。これにより植物の根がミネラル栄養成分を吸収し易くしています。植物の根はミネラル栄養成分の吸収量が増えて、植物の生育は旺盛になります。

肥料のカキガラ石灰は炭酸カルシウムCa(CO₃)でできています。水が加わり、二酸化炭素ガスが発生し、2価のカルシウムイオンは、土壌粒子の表面に吸着している水素イオン2個と置き換わることで、土壌粒子の表面に吸着します。土壌粒子から分離した水素イオン2個は、炭酸カルシウムに残された酸素イオンと化合して水分子を形成します。

土壌の粘土粒子の表面はマイナスに荷電しており、プラスイオンのカルシウム、マグネシウム、カリウムといったアルカリミネラルはプラスに荷電しているため、磁石のプラス極とマイナス極が引き合いくっつくように、土壌の粘土粒子の表面に吸着することができます。

セルロースが分解されてつくられた糖や有機酸のカルボキシル基(COOH)も、土壌細菌の体もマイナスに荷電しており、粘土粒子と同じくプラスに荷電するミネラルをくっつけることができます。土壌中に有機物が増えることで、プラスイオンを吸着保持する容量であるCEC(陽イオン置換容量)が増え、よりたくさんのアルカリ性ミネラルを保持できるようになります。つまり保肥力が増すのです。植物の根は根酸以外に、プラスに荷電している水素イオンを分泌していて、水素イオンと土壌粘土粒子や有機物や土壌細菌に吸着しているカルシウム・マグネシウム・カリウムなどのアルカリミネラルと置き換えることで、これを吸収しています。

【5】地力の減衰
現在、一般的な「工業的農業」では、肥料の施肥、機械による耕起、潅水などにより、作物の生育を促進させています。これらの栽培技術は、作物だけではなく、目には見えない土壌微生物も活性化させてしまい、地力の源であるセルロースの消費が激しくなり、地力の減衰が著しくなってしまいます。

現在の農業では、窒素肥料を施用することは、ごく当たり前のこととなりました。窒素肥料の窒素は、作物に吸収されて、作物の生育を促進するだけでなく、土壌微生物にも利用され、土壌微生物を増殖させます。土壌微生物の増殖によって、土壌中のセルロースの分解も促進され、地力の減衰が生じるのです。

上図(左)は、ウクライナのチェルノーゼムと呼ばれる黒土です。非常に多くの有機物を含んでいるため黒色をしています。ウクライナは内陸にあり、雨量が少なく、森が育ちにくく、長期に渡り草原となっています。冬は極寒なので、草原を覆う草は、秋に種を付けて、冬には枯れて倒れて土になっていきます。そのようなことが長い年月、繰り返されて、有機物が土壌に蓄積し黒色の肥沃な土壌となったのです。土壌の黒色は炭素の黒なのです。

上図(右)は、ウクライナの首都キーブ近郊の農地です。元は真っ黒だった土壌が、白ぽくなっています。黒土の黒色は有機物の色、つまり炭素の黒色です。その土壌中の有機物が失われたために黒色が失われ、白ぽくなっているのです。原因は窒素化学肥料にあると考えられています。窒素化学肥料の使用が始まって、黒土は土壌中の有機物の30~40%を失ったと考えらえています。白っぽくなった土壌では、根の張が悪くなり、生育が悪くなるだけでなく、病害虫の被害も増えています。つまり、地力の減衰です。

(1)窒素は土壌微生物も活性化させセルロースの分解を促進する。

窒素は大気中には窒素ガスとしてたくさんありますが、生物が有している大気中の窒素ガスをアンモニアに固定して、直接利用できる酵素はニトロゲナーゼだけです。そして、このニトロゲナーゼを有している生物は、かなり限られています。ほとんどの生物は窒素ガスを利用することができず、土壌中の、硝酸、亜硝酸、アンモニア、アミノ酸などの水に溶ける反応性窒素のみを利用しています。土壌中に含まれている窒素は、すべて土壌細菌に食べつくされてしまうため、土壌中は、常に窒素が不足している状態です。そこに作物を栽培するために窒素化学肥料が施用されます。この化学肥料の窒素も、硝酸やアンモニアという水に溶ける反応性窒素であり、この窒素は土壌細菌にも利用されます。土壌細菌の体は、おおよそ窒素1に対し炭素11で構成されているため、土壌細菌が窒素を吸収し利用することで、土壌中のセルロース由来の糖や有機酸が炭素源として、大きく消費していくこととなります。これにより地力の源であるセルロースが消費されることで、地力の減衰が加速したのです。セルロース由来の土壌炭素が減少すると、土壌の団粒構造が維持できなくなり、間隙がなくなり、土が締まって固く重くなってしまいます。植物は根の伸長がままならず、根量が減り、植物の健康が損なわれます。収量も品質も病害虫抵抗能力も低下してしまいます。

上図は、納豆菌の仲間などの桿菌の増殖力について解説したものです。

納豆菌の仲間などの桿菌は、非常に増殖スピードが早いことが知られています。環境と栄養が整えば、納豆菌は20分で1匹が2匹に分裂して増殖します。2が4、4が8、8が16、16が32、32が64、64が132という増え方をするので、0.001㎜しかない納豆菌1匹は、15時間30分後には、アヒルの卵(6.5㎝×4.4㎝)と同じほどの体積にまで増殖します。さらに、31時間後には、裾野の直径が31㎞、高さが3㎞の富士山と同じほどの体積になります。さらに、48時間後には、地球と同じ体積にまで増殖します。それほどの増殖力があるのですが、増殖はある程度のところでスピードダウンし、止まってしまいます。原因は、主に2つ、①栄養となるエサを食べつくしてしまって、もう体をつくる原料が調達できなくなり、増殖できなくなる場合。②納豆菌が増殖することで、同じように増加する納豆菌の排泄物が環境中に溜まっていき、生育環境が汚染されてしまい、環境悪化で、増殖が困難になる場合です。

土壌では、常に窒素が食べ尽くされて、窒素がない状態が自然です。納豆菌の増殖も、体をつくるために必要な窒素を食べつくすことで、増殖が止まります。ところが、窒素化学肥料が土壌に施用されると、それは作物にのみ利用可能な窒素ではなく、作物よりも土壌細菌に利用されやすく、土壌細菌は窒素を食べつくすまで、増殖します。この時に、土壌細菌は窒素だけでは、自分の体をつくることができないので、土壌中の炭水化物も利用します。土壌細菌の炭水化物の利用量は、窒素の10倍以上にもなります。これにより地力の源であるセルロースが消費され、減衰してしまうのです。

セルロース由来の炭水化物が土壌中に豊富にあった頃は、化学肥料の窒素は、土壌細菌を爆発的に増やし、土壌細菌がつくる生理活性物質(ビタミン・アミノ酸・核酸・ホルモン・酵素など)が作物に供給されるので、収量・品質が向上し、病害虫抵抗力も向上したと考えらえます。しかし、セルロース由来の炭水化物が消費しつくされてしまうと、土壌細菌はエネルギー源を失い活動ができなくなります。土壌細菌は化学肥料の窒素があっても、もうそれを食べることができなくなります。化学肥料の窒素は、土壌細菌に邪魔されることなく、植物に供給されますが、植物が利用できない窒素は、土壌中に残留してしまいます。

土壌細菌は単細胞生物です。1つの細胞の中に、生きていくために必要な機能をすべて備えています。これに対して多細胞生物の動物のヒトは、器官ごとに機能分化することで、かなり省エネルギーで生きていけるようになっています。

上図のように、単細胞生物の土壌細菌60㎏と、同じく60㎏の多細胞生物の動物のヒト1人との、生きていくために必要な消費エネルギーを比べてみると、土壌細菌はヒトの3000倍~1万倍もの膨大なエネルギーを必要とします。土壌細菌は非常に大食漢なのです。土壌細菌のエネルギー源は、糖などの炭水化物です。土壌細菌は増殖するために、土壌のセルロースを消費するだけでなく、ただ生きていくためだけでも、かなり多くの土壌のセルロースを消費してしまいます。

窒素肥料が地力を減衰させる原因だから、窒素を施用しない農業を行えば、地力は減衰しないと考えるのは、間違いです。根から吸収された窒素の多くが、葉緑体をつくるために使われます。イネの場合、イネの葉の中の窒素の79%が葉緑体に使用されており、ミトコンドリアに9%、その他タンパク質を生産するリボソームや細胞核などに残りの12%が使用されています。窒素は葉緑体をつくるために重要な栄養成分なのです。よって、窒素を施用しないと考えるより、失われていくセルロースを積極的に施用して補うことを考えた方が良いです。

(2)現代の「工業的農業」は土壌のセルロース分解を促進し易い

現代の農業生産は「工業的農業」と名付けるのがよいのではないでしょうか? ①単作栽培、②栽培化された作物の利用、③化学肥料の施肥、④機械による耕起、⑤灌漑、⑥化学的防除、⑦雑草防除という7つの基本技術によって、生産収量と収益の最大化が図られています。この「工業的農業」の手法では、地力の源である土壌中のセルロースの分解を促進させてしまいます。そして、セルロースの減少は、土壌の物理性の悪化、生物性の悪化、化学性の悪化を招きます。つまり地力の減衰を非常に招き易いのです。

農業生産では、土壌の栄養成分を作物に吸収させて栽培生産された農作物を、収穫・出荷し圃場の外へ持ち出してしまうので、作物が土壌から吸収した分の栄養成分が、土壌から明らかに減少してしまいます。しかし、これは肥料を活用して、不足する栄養成分を補うことができます。肥料で補い続ける限りは、持続的に農業生産を行うことが可能です。そして、土壌の団粒構造を維持しているのがセルロースであり、農業生産によって土壌中のセルロースも消費されてしまうのであれば、セルロースも、他の肥料と同じように施用すればよいということになります。

「工業的農業」のはじまりは、化学肥料の施用にはじまると考えられます。

上図(中央)は「リービッヒの最小律」と呼ばれる樽のたとえです。樽の中に溜めることができる最大水量は、樽を構成している木片の一番短い所から、水があふれてしまうので、もっと水を溜めようとするなら、一番短い木片を長くする必要があります。近代化学農芸の父とよばれるドイツのユストゥス・フォン・リービッヒ氏は、この樽のたとえを使って、作物栽培において、生産量を決めているのは、生長要因の中でもっとも量の少ないものであるとしました。つまり、樽の中の水の量を「最大収量」、樽を構成している小木片の一つ一つを作物の生長要因と考えるとき、上図(中央)では、「窒素」と書かれた一番短い小片が原因で、それ以上、樽には水が溜まらないのです。

リービッヒ氏は、作物を栽培すると、土壌の栄養成分が作物に吸収されてなくなってしまうことを指摘し、肥料で補わないなら、それは土壌からの一方的な「略奪」になってしまい、やがて、何か足りない栄養成分が生じて、それが致命的な原因となり、その足りない成分を補ない限り、他の方法をいろいろ試しても、改善されないということを明らかにします。後に、ユリウス・フォン・ザックスによる水耕栽培による実験で、作物に必要な栄養成分が何かということが突き止められます。

「工業的農業」は、栄養成分を的確に補うことができるということで、安定した収量と品質を維持することができ、持続的な農業生産が可能となっています。これと同じように、地力の減衰もセルロースの消耗によって起きることなので、栄養成分を肥料で補うのと同様に、土壌にセルロースを補って、地力を回復することで、安定生産と持続的な農業経営が可能にすることができます。

【6】地力の回復
土壌に足りない成分がセルロースであるならば、セルロースを土壌に施用し補えばよいだけのこと。有機物を活用した農業=有機農業(オーガニック・ファーミング)のはじまりとなります。

ヨーロッパでは、近代になる前から、地力の減衰という問題に直面しており、農業生産において、地力の回復は、大きな関心事でした。

ヨーロッパの平野は、もともと深い森が広がっていました。紀元前58年のガイウス・ユリウス・カエサル著の『ガレア戦記』には、「ゲルマニア(現在のドイツ)の森は、2ヶ月歩いても森の端に到達しない」とあります。ヨーロッパブナの学名は「Fagus sylvatica」で、これはギリシャ語で「食べる+森の」となります。ブナの実は食用になります。ただし、タンニンが多く、食べるためには粉にして、水でさらす必要があります。落葉広葉樹のヨーロッパブナは、最大で高さ50m、幹の直径は3mにもなります。秋になると大量の落ち葉を落し、その降り積もった落葉は腰の高さを超えて、森に人が入って、そこを歩くことができなかったといわれています。

11世紀後半頃から13世紀前半の200年は「大開墾時代」と呼ばれています。冶金技術が発展して、鉄の斧や鎌が普及したこと、ベネディクト派やシトー派といった修道士たちが率先して開墾に従事したことで、豊かな森は、どんどん畑になっていきます。「大開墾時代」には、鉄製の犂を、より重たくし、車輪をつけて、牛や馬に引かせるという「重量有輪犂」が普及します。これにより湿った重たい土壌でも、深く耕すことができるようになります。しかし、深く耕すことによって、土壌の有機物の分解は促進されて、長い年月をかけて豊かな森が養った有機物も底をつき、地力が減衰し、収量が低下し始めます。地力を回復させる必要に迫られて、ヨーロッパでは「三圃式農業(複合農業)」がおこなわれるようになります。

「三圃式農業」は、畑を3つに区分けし、冬に小麦・ライ麦を栽培する畑、夏に大麦、豆、燕麦を栽培する畑、地力を回復させるために休耕する畑とし、休耕した畑には、草を生やし、村の家畜を共同放牧し、家畜の排泄物で土壌を肥やすというものです。さらに、18世紀のイギリスでは、四圃式(ノーフォーク農法)が始まります。ノーフォークとは地名です。ロンドンの東部にあたります。四圃式(ノーフォーク農法)とは、圃場を4つに区分けし、冬の小麦→カブ(冬の家畜用飼料)→夏の大麦→クローバー(放牧)と輪作する農法がはじまり、資本投下により、圃場集積、土壌改良が進められ、都市住民向けの商業的農業が展開されます。収穫量が増えたことで、穀物価格が低下し、産業革命を下支えします。ノーフォーク農法は、実際は、小麦→大麦→小麦→カブ→大麦→クローバーと輪作する六圃式が多かったようです。

中世以降のヨーロッパでは、「地力の減衰」は、食料生産量の低下をもたらし、食料の不足は、飢餓をもたらします。よって非常に深刻な大問題として認識されており、「地力を回復する」ために、地域全体、集落全体で「三圃式農業」に取り組み「休耕」という方法で地力の回復を行っていました。それが産業革命以降、集落で行う農業から、企業が労働者を雇って行う農業に変わっていき、コストがかかる地力の回復は行われなくなり、天然資源である地力は搾取できるだけ、搾取されるようになり、地力が枯渇した農地は、耕作放棄されるようにもなってしまいました。

一方で、科学技術の進歩で、地力の源がセルロースであることが明らかになり、地力の減衰の原因がセルロースの減少であるということがわかってきました。そして土壌にセルロースを補うことで、地力を回復し、地力を維持し、さらに地力を増進させることも可能であることがわかってきました。そして、有機物(特にセルロース)を積極的に施用し、土壌の地力を回復させる農業技術が確立していきます。それが有機物を活用した農業=有機農業(オーガニック・ファーミング)のはじまりとなるのです。

【7】セルロースを堆肥化して施用した方が良い理由
セルロースを好気発酵させて、セルラーゼを有している微生物に加水分解させて、水に溶けるように加工することで、土壌の団粒構造を促進し、腐敗を防止し、有機酸によってミネラルの可溶化を促進することができます。

堆肥とは何か?  堆肥とは、セルロースを発酵分解させて水に溶けるように加工したものです。

上図は、堆肥の一例です。原料は乳牛の牛糞が3割、後の7割は、杉などのカンナ屑(プレナー粕)です。木材ですが、チッシュペーパーのように薄く削られたものです。樹皮の部分は、ほとんどんないため、成分は主にセルロースになっています。セルロースには窒素が含まれていないため、セルロースを分解する細菌を増殖させるため、細菌の体のタンパク質をつくる原料となる窒素を加える必要があります。上図では、乳牛の牛糞に窒素が含まれています。

セルロースを酸素の多い好気状態で、体積に対して60%ほどの水分を加えて、納豆菌の仲間のバチルス菌に食べさせることで、60℃ほどの発酵温度が生じます。60℃の状態で30~45日ほど発酵させると、セルロースは分解して、飴のように溶けて、ネバネバしてきます。水に溶かすと、ほとんどすべてが溶けてしまう状態となります。

堆肥発酵の主役となる発酵菌は、納豆菌の仲間のバチルス菌です。堆肥の製造は、この細菌が活動しやすい環境を整えるていくことになります。①原料の炭素/窒素比率を15/1~25/1(+1~2)になるように調整します。②散水して水分を加えます。水分量は原料の含水量を含めて体積の60%ほど必要です。③pH=6.5以上が良いです。6.5よりも低い(酸性)の場合は消石灰などを添加しpHを調整します。6.5よりも酸性側では発酵しにくくなります。④エアレーションができるのであれば、体積の2%が空気になるように送り込みます。⑤高さ1m×奥行3m×幅4mに積み上げます。1mの高さに積み上げられた、底の方で熱が上がってきます。幅4m×奥行3m×高さ1mにすると、エアレーションが無くても、発酵熱が上がることで、自然と空気が吸い込まれるようになります。これよりも大きな体積で発酵させたい場合は、人工的なエアレーションが必要になります。

納豆菌の仲間のバチルス菌が有機物を占有するために分泌する毒素は、セルロースを分解するセルラーゼと、タンパク質を分解するプロテアーゼです。どちらの酵素も加水分解酵素で、水分子を加えることで、脱水結合されている部分の鎖を切っていきます。2つの酵素を分泌し、セルロースとタンパク質を旺盛に分解するため、分解熱を生じさせます。これが堆肥の発酵熱です。発酵熱は60℃にもなり、熱によって耐熱性を有しているバチルス菌以外の細菌は死滅してしまいます。そして、納豆菌の仲間のバチルス菌は、非常に旺盛な増殖力で、有機物を食べつくし、空間を埋め尽くすように増殖します。

原料を混ぜ合わせ、水を散水し、1mほどの高さに堆積させると、堆積されて圧縮された底で、発酵が始まり、次第に温度が上がってきて、10日ほどで、堆肥の中心部の温度は60℃にもなります。時々切り返しながら、60℃前後の温度で30日~45日ほど発酵させると、セルロースが主成分のカンナ屑は、飴のように溶けて、ネバネバの物質になります。発酵が進んだ堆肥は、セルロースが糖や有機酸になっていくので、水によく溶けるようになります。

セルロースをセルロースのまま施用するのではなく、好気発酵させて堆肥にして施用した方がよい理由は、大きく2点あります。1つ目は、水に溶けやすくすることです。2つ目は、発酵させることで、有機物の腐敗を防止し、堆肥の栄養成分を土着菌に横取りされることなく、発酵菌が土壌でも増殖し、土着菌よりも優勢になるようになります。

(1)水に溶けやすくすることで、土壌団粒化を促進します。
セルロースはブドウ糖の鎖です。ブドウ糖同士を結合してところは脱水結合によって結合しています。よって、このつなぎ目に水分子を加えることで、加水分解させることができ、鎖を切り、元のブドウ糖にすることができます。発酵させることで、加水分解させて、セルロースを、ブドウ糖やブドウ糖がいくつか連なった短い鎖のオリゴ糖にすることで、水に溶けやすくします。水に溶けることで土壌中に浸透し易くなり、土壌を団粒構造にし易くします。

(2)発酵させることで堆肥の栄養成分を堆肥の発酵菌に占有させる。
発酵させることで、発酵菌をセルロースに接菌させることができます。細菌は先にエサとなる有機物に取り着いた方が、その有機物を占有することができ、後から来た細菌を寄せ付けなくすることができます。細菌の世界は生存競争が非常に激しいため、細菌は有機物に取り着くと、他の細菌にエサとなる有機物を横取りされるのを防ぐため、周囲に毒素を分泌してバリアをつくります。

堆肥の中の発酵菌はセルロース由来の糖など堆肥の中のさまざまな栄養成分を占有しています。これは堆肥が土壌に施用された後も続きます。土壌中に生息している土壌細菌は、土壌中の栄養成分を食べつくして、もう食べる物がなく、増殖しつくした状態です。これに対し堆肥が施用されて栄養成分が供給されることになるのですが、堆肥の栄養成分は、堆肥を発酵させた発酵菌に占有されているために、土壌の細菌は、堆肥の栄養成分をすぐには利用できません。堆肥の発酵菌はエサ付きで土壌に施用されるので、土壌中で、土着の細菌よりも、優勢になり、勢力を拡大し、土壌の生物性を変化せていきます。

畑の土壌には、10aあたり、およそ700㎏の生物が生息しており、その70%がカビの仲間の糸状菌です。ほとんどは腐生菌とよばれるもので、生命活動を終えた死体残渣を分解することに特化したもので、生きている植物に危害を加えるものではありません。しかし、作物の病気の99%はカビの仲間によるものであることも事実です。セルロースを堆肥にすることで、土壌中に生息しているカビに栄養を与えて増殖させることなく、逆にカビを抑制する効果がある堆肥由来の納豆菌の仲間を土壌中に増やすことができます。

【8】堆肥の弱点と克服法
堆肥施用によってもたらされる効果を知っておくことで、効果的な利用も可能になり、堆肥の弱点を知っておくことで、弱点に対する対処も可能となります。堆肥の弱点は「有機酸がミネラルを溶かしてしまうこと」と「堆肥の窒素は遅効性で緩やか過ぎること」の2点です。

上図(左)は堆肥を施用することによってもたらされる効果をまとめたものです。堆肥は、好気発酵させることで、セルロースを水溶性にしたものです。堆肥の効果は、土壌の物理性、生物性、化学性を改善し、地力を高めることです。土壌を団粒化し、毛管水をつくり、土壌の保水力を高めます。これにより根量が増えて、作物の生育が旺盛になります。また、堆肥に含まれているセルロース由来の糖や有機酸、堆肥の発酵微生物がつくる有機酸によって、土壌中のミネラル栄養成分が溶け出し、有機酸がキレートすることで、土壌中のミネラル栄養成分の保肥力を高めます。

上図(右)には、堆肥の弱点が2つ記載してあります。①土壌ミネラルの消耗が激しいことと。②堆肥由来の窒素は遅効性で、作物栽培の初期生育には効かないことです。この弱点については、あらかじめ理解しておけば対処ことは容易です。

土壌のミネラルの消耗に対しては、土壌分析を行い、土壌のミネラル栄養成分の土壌含有量を調べて、不足していたら肥料で補うことで、ミネラル欠乏による収量低下・品質低下・病害虫抵抗能力の低下を防ぐことが可能です。

堆肥の窒素が遅効性で、初期生育のための窒素としては効きません。よって初期生育を助ける即効性のある窒素肥料を別途施用する必要があります。

(1)土壌ミネラルの消耗が激しいこと

堆肥を施用することで、土壌のミネラルの消耗が激しくなってしまいます。原因は、堆肥を施用することで土壌中に増える有機酸です。有機酸は、土壌中のミネラルを溶かし、キレートして、作物の根が吸収し易い状態にします。これにより作物のミネラルの吸収量が増えて、品質・収量・病害虫抵抗能力が向上します。また、土壌が団粒化すること、有機物のカルボキシル基や土壌細菌が土壌の粘土粒子と同じくマイナスに荷電していることで、土壌の「陽イオン置換容量」を高めていきます。陽イオン置換容量は、土壌の化学性の指標のひとつです。土壌がどれだけのカルシウム・マグネシウム・カリウムといったプラスイオンのミネラルを保肥することができるのかを数値で表したものです。「陽イオン置換容量」は「器の大きさ」にたとえらえます。10aあたり100㎏のカルシウムが土壌に入っていても、「陽イオン置換容量」が大きく、10aあたり200㎏のカルシウムが入る土壌に対して実際は100㎏しか入っていない場合、カルシウムが薄い土壌になってしまいます。10aあたり300㎏のカルシウムが入る土壌に、実際には100㎏しか入っていない場合は、さらにカルシウムは薄められてしまいます。「陽イオン置換容量」が大きくなれば、それに応じて土壌が満足する量まで肥料を入れる必要があるのです。100㎏しか入らない土壌と、300㎏も入る土壌では、300㎏入る圃場の方が、同じ量の根でも、3倍のカルシウムを得ることができるので、生育は良くなります。堆肥を施用することで「陽イオン置換容量」は向上していきます。これを土壌分析を行い、現状のミネラル栄養成分の土壌中の含有量をモニタリングし、施肥設計をして、「陽イオン置換容量」を求めて、土壌が求めるカルシウム量をしっかり施用することが必要になります。

(2)土壌分析と施肥設計技術


上図は、冨士平工業製の簡易土壌栄養成分分析器「農家のお医者さん」による土壌分析です。①土壌サンプルを根酸と同じくらいの酸度の酸で溶かし、濾過器で濾過し、濾液を得ます。②濾液に対して、試薬を加えて、発色させて、その発色の色の濃さを数値化します。

(3)堆肥由来の窒素は遅効性で、作物栽培の初期生育には効かないこと



上図は、植物の初期生育の重要性について図解したものです。

左は最初の葉の葉緑体の光合成能力が高い場合です。はじめの葉の葉緑体がつくるブドウ糖を原料に、そしてエネルギー源として次の葉の葉緑体がつくられるので、はじめの葉の葉緑体の光合成能力が高い場合は、次の葉の葉緑体をしっかりとつくることができます。よって、次の葉の葉緑体の能力も高くなります。つまり、初期生育が良いと正のスパイラルができ、その後の生育もよくなります。根量も増え、根酸の分泌も多くなり、ミネラルの吸収もよくなります。

右は最初の葉の葉緑体の光合成能力が低い場合です。はじめの葉の葉緑体がつくるブドウ糖が少ないので、次に葉の葉緑体をしっかりつくることができず、次の葉の葉緑体の光合成能力も低くなってしまいます。つまり、初期生育が悪いと負のスパイラルができ、その後の生育も悪くなってしまいます。根量も少なく、根酸の分泌も少なくなり、ミネラルの吸収も低くなります。

初期生育が良いこと。特に最初の葉の葉緑体の光合成能力が高いことは、その後の生育にも関わる大きな問題です。葉の中の窒素の79%は葉緑体の中にあります。ミトコンドリアに9%で、残り12%がタンパク質をつくる酵素リボソームと、タンパク質をつくる設計図であるDNAを格納している核につかわれています。よって初期にしっかり窒素を吸収させて、葉緑体をしっかりつくることは、その後の生育をよくするために非常に重要なこととなります。

上図は、化学肥料の窒素である硝酸態窒素と堆肥の窒素の肥効を比較したものです。水に溶けやすい硝酸態窒素は、土壌に施用後、すぐに作物に効きます。しかし、堆肥の窒素は初期には、ほぼ効かず、ゆっくりじわじわと長く効きます。

堆肥の窒素は、堆肥を発酵させた発酵菌に食べつくされてしまい、菌体窒素になってしまっています。よって、菌が死ぬまで、土壌中には放出されません。また、セルロース由来の炭水化物が多いほど、発酵菌の活動は活発になるため、炭素:窒素比率が高いほど、実際に植物に効く堆肥の有効窒素量も減少してしまいます。さらに、温かい夏季は発酵菌の活動も活発なため、窒素はよく効きますが、低温になる冬季は、窒素の肥効は低下します。

堆肥の窒素は遅効性でゆっくり後半でだらだらと長く効きます。このことは作物栽培に利用もできます。冬に栽培するアブラナ科のキャベツ、白菜、菜花、ブロッコリー、カリフラワーなどは、堆肥を利用することで、基肥として堆肥を施用することで、追肥を行わなくても栽培することが可能になります。しかし、冬に栽培するアブラナ科のキャベツ、白菜、菜花、ブロッコリー、カリフラワーなどでも、窒素源を堆肥だけで栽培すると、初期生育が悪くなり、小振りになってしまったり、キャベツや白菜では、初期の生育が遅すぎて、結球しないまま、冬になってしまうこともあります。

(4)アミノ酸肥料で初期生育を補う

植物の体内で、もっとも多くの窒素が含まれているところは光合成を行なう葉緑体です。窒素が少ない場合は、葉緑体がうまくつくれず、光合成能力が低下し、生育不良になってしまいます。そこで、作物栽培の初期生育に重要な窒素は、堆肥の窒素にたよらず、別で、水に溶けやすく即効性のある窒素肥料を施用する必要があります。硝酸のような化学肥料の窒素でも良いのですが、有機農業がテーマなので、有機の窒素肥料で水に溶けやすく即効性のあるものを探すと、フィッシュソリブル由来のアミノ酸肥料に行きつきます。フィッシュソリブル由来のアミノ酸肥料は、肥効においては、硝酸をはるかに凌駕する性能をもっています。


上図は、①フィッシュソリブルのような発酵していない抽出型アミノ酸肥料の窒素の肥効と、②醤油粕、酒粕、ビール粕のような発酵型アミノ酸肥料の窒素の肥効、③発酵させていないなまの状態の有機物の窒素の肥効を比較したものです。

①抽出型アミノ酸肥料は、化学肥料の硝酸態窒素肥料と同じくらい、よく水に溶け、即効性で、初期にしっかり効きます。②発酵型アミノ酸肥料は、すでにアミノ酸になっている部分がまず効き、さらに施用された土壌中で発酵微生物によって、まだ、アミノ酸になっていないタンパク質が分解されてアミノ酸がつくられるので、ふた山型(ツインピークス型)に窒素が発現してきます。③なま有機物は、土壌中で、発酵するとは限らず、多くの場合、腐敗してしまいます。窒素の肥効は、発酵してつくられている堆肥の窒素の肥効よりも悪く、ほとんど効かないと考えても良いです。

①抽出型アミノ酸肥料は、施用後、1日~3日の内に、新しい根を伸長させて、葉の色を濃くします。②発酵型アミノ酸肥料は、2日~4日の内に、新しい根を伸長させて、3日~5日の内に、葉の色を濃くします。発酵型アミノ酸肥料は抽出型アミノ酸肥料に比べると、少し効きが遅いですが、化学肥料の即効性のある窒素肥料と同じくらい良く効きます。

【9】現代の堆肥の問題点
現代の堆肥はセルロース不足が生じ、団粒構造の促進ができなかったり、強アルカリになってしまったり、地力回復や地力の増進ができず、堆肥を窒素・リン酸・カリウムの肥料として使用するしかない状態が起きています。

(1)セルロース不足の問題
堆肥を圃場へ施用する理由は、地力の回復、または地力の向上です。地力は、セルロースを土壌微生物が分解することで、土壌を団粒化することで増していきます。セルロースが溶けないと土壌は団粒化しないので、セルロースを生のまま施用するのではなく、堆肥化して、セルロースを発酵微生物の力を使って、加水分解し、水に溶けやすい状態にしてから圃場へ施用するというのが堆肥の役割です。

現在、堆肥と言えば、畜糞廃棄物を原料にしたものが多くあります。セルロースは窒素を含んでいないため、セルロースだけを原料とすると、発酵菌を増殖させることができません。発酵菌の体はタンパク質でできているため、何らかの窒素源が必要となります。よって、牛や豚などの排泄物を窒素源に、飼育時に使用する敷材のワラやオガクズをセルロール原料として、混ぜ合わせることで、発酵菌を増殖させて、セルロースを加水分解させて、堆肥化するという方法が行われていたのです。

窒素不足でも、発酵菌が増殖できないため、発酵温度が上がらず、発酵が停止してしまいますが、セルロース不足でも、発酵菌のエネルギー源の不足で、発酵が停止してしまいます。ところが近年の畜産経営では、コスト重視、効率重視になってきて、畜糞の堆肥化が不十分になってしまう傾向が増えています。①生産コスト面から、敷材のワラやオガクズの使用量が削減されてしまい、堆肥にするための十分なセルロースが足りない場合。②そもそも廃棄物処理なので、発酵処理という時間がかかり、コストがかかる方法をとりたくないという場合。畜糞は処理が不十分な場合、腐敗しやすく、悪臭の原因にもなります。よって畜糞を火力発電の燃料として燃やしてしまう場合も多くなってきています。燃やしてしまうと二酸化炭素が発生してしまうのですが、生ごみの焼却処理と同じで燃やすことは衛生的です。そして燃やした熱で発電ができるとなると、燃やす方がエコロジーと認識されることもあります。

セルロース不足の堆肥では、土壌を団粒構造にすることができず、堆肥が本来有している地力向上効果が発揮されません。堆肥を地力増進という目的で施用するのではなく、窒素・リン酸・カリウムを含有している堆肥を肥料として使用しようという考えも浸透しています。

(2)腐敗原料の使用の問題と完熟堆肥
原料の畜糞がすでに腐敗してしまっている場合、一度、腐敗してしまったものを、発酵させることは不可能です。腐った食品は、どのように調理しても、もう二度と食べることはできません。調理によって、味付けをして、味自体は、ごまかせるかもしれませんが、腐敗物質や細菌性毒素やアンモニアやアミンは、人体に対しては毒となり、食中毒を起こす危険性があります。細菌性毒素は、熱では分解しないものも多く、タンパク質を壊す性質のものがあり、腸から血液に吸収されてしまうと、血液を通じて全身に回わり、意識不明で、多臓器不全という形で命を奪うことすらあります。腐敗物質は、細胞を破壊するため、植物の根にも障害を起こさせます。根腐れといった症状を引き起こします。

腐敗物質を無害にするためには、酸素によって酸化させて、硝酸、二酸化炭素、水といった無機物になるまで、徹底的に分解させない限り、無害化することはできません。完熟堆肥が良いという理由のひとつとして、完熟堆肥は、長い時間をかけて、徹底的に分解されているため、腐敗物質が残留している心配が少なく、腐敗物質による根痛みが生じないからです。

また、セルロースが豊富な堆肥は、糖や有機酸を多く含んでいるため中性からやや酸性を示しますが、完熟になるまで分解させた堆肥は、発酵菌が死んで、その死骸よりアルカリ性物質のアンモニアが発生したり、ミネラルをキレートする有機酸自体が分解されて失われ、含有するカリウムやカルシウムをキレートするものがなくなるため、その影響で、強いアルカリを示すこともあります。土壌中のミネラルの多くは酸性側で溶けやすいので、土壌をアルカリ側にしてしまうことで、作物がミネラルを吸収しにくい土壌になってしまいます。












根量を増やす団粒構造

根量を増やす団粒構造 土壌の作物を育てる力=地力。その源は団粒構造であり、団粒構造を支えている糊状の炭水化物です。 上図(左)は、有機物が入っていない土壌です。学校の土のグラウンドのような硬い土壌です。土が硬く締まっているために、作物は根を伸ばすのに非常に苦労をします。さらに、雨...