堆肥を活用した有機栽培の土づくりのすすめ

 堆肥を活用した有機栽培の土づくりのすすめ



【1】有機物は土壌をどのように変化させるのか?

上図(左)は、有機物が入っていない土壌です。学校の土のグラウンドのような硬い土壌です。土が硬く締まっているために、作物は根を伸ばすのの苦労をします。そして雨が降っても、土壌粒子が詰まっているために隙間がなく、雨水は表層に留まり、浸透することができず、水たまりをつくります。そして、すぐに乾いてカチカチになってしまいます。雨が降れば水浸し、乾けばガチガチという、とても過酷な環境です。

上図(右)は、有機物を多く含んだ土壌です。特に植物の残渣のセルロースが土壌微生物に分解されると糊状物質をつくり、これが土壌粒子を集めて、収縮し、間隙の多い団粒構造をつくります。団粒構造の土壌は、スポンジのように土壌中に間隙が多くなり、この間隙に水分と空気が適度に保存されるため、根が良く発達します。スポンジのような構造なので、フカフカで、トランポリンのように弾むような土壌となるのです。雨が降れば、雨水は間隙に浸み込んでいき、保水され、必要以上の水は地下深くへ流れ落ちていきます。

有機農業(オーガニック・ファーミング)はその名前の示すとおり、有機物を活用した農業です。有機物を施用すると、左のようなカチカチの重たい土壌が、フカフカの軽い土壌に変化します。フカフカの団粒構造の土壌にすることで、収量・品質・病害虫抵抗能力が向上します。地力=土壌の有する作物生産能力は、土壌の中の有機物が維持しているのです。有機農業のテーマは、有機物を積極的に施用して、農業生産によって減衰してしまう地力を回復することであり、地力を増進することで、生産能力を向上させることなのです。

そもそも土壌は、植物がつくったものです。もっと大きな視点でみると、地球という惑星自体が、植物によってテラフォーミングされています。植物は光合成を行なうことで、生きていくためのエネルギー源であるブドウ糖を自ら生産することができます。地球上のほとんどすべての生物が植物など光合成を行なう生物がつくったブドウ糖をエネルギー源にして生命活動を行っています。その植物の細胞壁をつくっている物質がセルロースです。セルロースはブドウ糖でできています。地球上でもっとも量が多い生物が植物で、その植物がもっとも多く生産している生体物質がセルロースです。そのセルロースを土壌微生物に提供して、つくったものが土壌です。土壌は植物が陸上で生きていくために必要な水分と栄養成分を確保し、水分と栄養吸収の要である根の生育を助けるものです。土壌は、植物にとっての生命維持装置のようなものです。土壌の機能を維持しているものがセルロースで、土壌をつくっているのは土壌微生物です。この自然生態系の土づくりのメカニズムを学び、このメカニズムを積極的に農業生産に取り入れて、地力の回復と地力の増進をめざすのが有機農業なのです。

【2】「土づくり」と「葉緑体つくり」の2つの知識と技術を学ぶ

農業生産者の願いは、①収量の向上・②品質の向上・③病害虫抵抗能力の向上の3つに集約するのではないでしょうか? 収量・品質・病害虫抵抗能力の向上を実現するためには、まず「土づくり」と「葉緑体づくり」の2つについての知識と技術を取得する必要があります。

植物の体には、17種類の元素が必須であることがわかっています。二酸化炭素は気体のものを直接、葉などの気孔から吸収していますが、それ以外の窒素やミネラルはみな、根から水に溶けたものを吸収しています。よって①根量を多くし水と栄養吸収量を多くすること、②植物の根が利用しやすい水分の確保すること、③植物の根が吸収しやすい栄養成分を土壌中に確保することが技術の中心課題となります。そして「根量が増える土づくりは堆肥を活用した土壌を団粒構造にする土づくり」が基本となります。

土づくりによって、根量が増えて、作物の水分と栄養成分の吸収量を増やすことができたなら、次に考えることは、どのような栄養成分を、どれだけ吸収させたらよいのかということになります。これは「葉緑体の光合成能力を高めることができる栄養成分」となります。

植物は光合成を行なうことができるので、生きていくためのエネルギー源であるブドウ糖を自ら生産することができます。また、大量に生産できるブドウ糖を活用してセルロースをつくり自分の体を支えています。病害虫に対する抵抗にも、ブドウ糖を原料にさまざまな化学物質をつくり、それを駆使することで行っています。植物の体は、水を除けば、8割が光合成によって生産された炭水化物でつくられています。農産物の美味しさも、栄養価の高さも、デンプンなどの貯蔵量も、見た目の美しさも、ブドウ糖を原料とした炭水化物によって担われています。植物は葉緑体の光合成能力によって生きています。よって、性能の高い葉緑体をしっかりつくることが重要な技術となります。①スムーズに光合成能力の高い葉緑体をつくるためにはどうしたらよいのか?②ひとつひとつの葉緑体の光合成能力をもっと高めることができないのか?③葉緑体の寿命を長くし、光合成を行なう時間を伸ばすことはできないか?ということが技術の中心課題となります。

光合成能力を高める技術には、環境制御技術も含まれてきます。光合成に最適な温度管理、日射量の管理、作物の根の吸水力は、葉の蒸散力に依存しているため、気孔の開閉をスムーズに行わせる湿度管理や送風技術、養分を吸収し易くするための潅水技術なども必要になってきます。

【3】堆肥は万能ではない。堆肥の弱点を克服する技術がある。

堆肥は、土壌を団粒構造にして、地力を向上させ、収量・品質・病虫害抵抗能力を向上させます。しかし、堆肥にも弱点が2つあります。それは①土壌ミネラルの消耗が激しくなることと、②堆肥に含まれている窒素は遅効性で、作物の初期生育の窒素としては役に立たないことの2点です。この2つの弱点は、予め知っていれば、現在においては、克服する技術も確立されているのですが、有機農業の先輩方は、この堆肥の弱点がわからず、非常に苦労し、克服する技術開発のために、大変な努力をした歴史があります。作物が獲れなくなり農業経営に行き詰ったり、有機農業だから収量が低く、品質が悪いのも、農薬を使っていないので病気や害虫が防げないのも仕方がないと開き直ったりもあり、有機農業は難しいというイメージをつくってしまいました。これから有機農業を行う人は、堆肥の土壌に対する効果と同時に、堆肥の弱点についても、しっかり理解し、総合的なの有機農業技術を身に着ける必要があります。



堆肥は土壌を団粒化し、根量を増やし、堆肥に含まれている糖や有機酸は土壌のミネラル栄養成分を溶かします。土壌から溶け出したミネラル栄養成分は、作物に吸収されるため、作物の品質も、収量も、病害虫抵抗性も向上します。しかし、土壌中のミネラルは有限なので、作物をつくるほど、消耗していきます。ミネラルの消耗していることに気が付かないと、ミネラル欠乏によって、収量・品質の低下し、そして病害虫被害が多くなってしまいます。これは有機農業にだけ特異に起こることではなく、すべての農業生産で、生産によってミネラルの消耗は起きます。しかし、堆肥を施用し、有機酸でミネラルを溶かし、団粒構造にして根量を増やす有機農業においては、堆肥を使用しない栽培方法よりも、ミネラルの消耗が大きくなり、欠乏が早くなるということが言えます。


ミネラルの消耗に対する対策技術はすでに開発されています。それは土壌分析技術と施肥設計技術です。上図は、冨士平工業製の簡易土壌栄養成分分析器「農家のお医者さん」です。酸で土壌を溶かしたものを濾過し、濾液に試薬を反応させて、発色させて、色の濃さを数値化することで、10aあたりに各栄養ミネラルが何㎏含まれているのかを調べることができます。土壌分析で得られた測定値を基に、施肥設計を行います。pHから、その圃場の塩基飽和度を推測し、アルカリ3成分(カルシウム・マグネシウム・カリウム)の値から、計算式を使って、まずは「陽イオン置換容量」を求めます。陽イオン置換容量を求めることで、測定値の値が、その土壌にとって多いのか少ないのか、あとどれだけ不足しているのかがわかります。不足している分を肥料で補うことで、ミネラルが不足して、作物が獲れないということは防止できます。


窒素は葉緑体をつくるために重要な栄養成分です。イネの場合では、葉の中の窒素の79%は葉緑体の中にあります。葉緑体がつくるブドウ糖によって生きている植物は、とにかく早く、性能の良い葉緑体をつくった方が、生育が良くなります。ブドウ糖をつくる能力の高い葉緑体は、たくさんのブドウ糖をつくり、次の葉緑体をつくるための原料とエネルギーを供給するために、正のスパイラルができます。逆に、初期生育が悪く、葉緑体のブドウ糖をつくる能力が少ない場合は、原料とエネルギーが不足するため、次につくられる葉緑体がうまくつくれず、負のスパイラルに入ってしまいます。


ほぼ、すべての作物の栽培において、初期生育がうまくいくことは、作物が健全に育つために必要不可欠な、非常に重要なことです。葉緑体をつくるために必要な窒素を、堆肥のみに頼ると、初期生育に必要な十分な量の窒素を得ることができません。そこで、堆肥に代わる窒素源となるものを施用する必要があります。

化学肥料の硝酸態窒素は、水に溶けやすく、即効性があり、初期生育を支える窒素源となります。しかし、有機農業では、化学合成された窒素肥料を使用できません。有機農業で使用でき、化学肥料の硝酸態窒素なみに効果がある窒素肥料を、探すと、フィッシュソリブルに行きつきます。フィッシュソリブルが原料のアミノ酸肥料を施用し、堆肥の弱点である、初期生育に必要な窒素を補うことで、作物を健全に育てることができます。

フィッシュソリブルは魚粕を生産する時にできる副産物です。家畜用のエサとなる魚粕は圧搾機で絞られて魚液が抜かれます。このときに魚粕から絞られた魚液を遠心分離機にかけると、魚油とフッシュソリブルと水に分離することだができます。フィッシュソリブルは、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニンなどのアミノ酸を豊富に含んでいます。タンパク質を発酵させてアミノ酸を得たものではなく、細かく砕くことでアミノ酸を抽出しているため抽出型アミノ酸肥料と呼ばれています。

上図は、抽出型アミノ酸肥料、発酵型アミノ酸肥料、堆肥、なまの有機物のそれぞれの窒素の肥効を表したものです。抽出型アミノ酸肥料は、水によく溶け、即効性の窒素として効きます。さっと効いて、すぐにさめて、ダラダラと長くは効きません。発酵型アミノ酸肥料は、発酵によって生産された既存のアミノ酸が、まず効き、さらに発酵微生物によって、さらなるタンパク質の分解が進み、もう一度アミノ酸がつくられて効きます。よって、小さな2つの山型に窒素が発現します。堆肥の窒素は発酵細菌の体になってしまっています。発酵細菌が死んだら窒素は発現しますが、C/N比率が高いと、発酵細菌にエネルギー源として炭水化物が供給されるため、発酵細菌が死んで窒素が発現しても、それはすぐに他の細菌に食べらえてしまい、作物へはなかなか供給されません。よって堆肥の窒素は、弱く、ゆっくり長くだらだらと効きます。なまの有機物は、土壌中で発酵するとは限りません。多くの場合は腐敗してしまうため、アミノ酸になることはなく、アンモニアや硝酸などの無機窒素まで分解されたのちに作物に窒素として供給されます。よって、その肥効は予測不能であり、腐敗物が根を痛め、根の伸長の障害になることもあります。






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