【有機水稲栽培④】土壌分析および施肥設計のすすめ
(1)土壌分析により田畑の栄養状態の現状値を正確に知ることができる
上図の写真は、冨士平工業製の簡易土壌分析器「農家のお医者さん」です。土壌に含まれている栄養成分を簡単に調べることができます。検査方法は、①土壌サンプルを水分を含んだ状態の生土のまま、乾かすことなく、田畑から採取してきて、すぐに分析することができます。②土壌サンプルを根酸と同じ酸度pH=4.2で土壌を溶かして、濾紙で濾過して濾液を得ます。これにより、根が溶かすことができる範囲の栄養成分を調べることができます。根が溶かせない栄養成分は、吸収することができないので、土壌に含まれている栄養成分の総量を調べる必要はないのです。③濾液に試薬を加えて、発色させて、その発色の濃さを調べることができます。その土壌に含有している各栄養成分(アンモニア態窒素・硝酸態窒素・可給態リン酸・交換性カリウム・交換性カルシウム・交換性マグネシウムの6種類について)の量を㎏/10aで表すことができます。鉄・マンガンの2種類についてはppm/10aという単位で求めることができます。
10aあたりの各栄養成分の含有量(㎏)を土壌分析で調べたら、この値を基に、CEC(陽イオン換置容量)を計算式で求め、各栄養成分の過不足を確認します。次に。CEC(陽イオン換置容量)に基づいて不足している栄養成分があれば、不足分を計算で求めて、その値に従い、肥料で精密に施用し、作物を栽培するために必要な、土壌の栄養成分が、すべて十分にある状態にします。
(2)秋ワラ処理時にミネラル施肥
水稲における土壌分析・施肥設計のポイントは、畑における野菜栽培と同じく、大きく2つあります。①根量が増え、栄養成分吸収が良好になるように、土壌pH=6.5以上にカルシウム・マグネシウムを施用して補正します。②リン酸は生命エネルギーの一時的に貯めておくできるミネラルです。よって、生長、開花、種子形成と種子の登熟に必要不可欠なミネラルです。湛水栽培を行う水田の場合は、溶け出したリン酸が、水自体が自重で、地下へ浸透していく作用で、下方向へ拡散し、表層で欠乏する場合があります。リン酸の現状値を調べ、不足するようであれば肥料で補います。
水稲の場合は、収穫後に圃場に大量にある稲ワラを発酵鶏糞などを施用して、秋のうちに発酵分解させて地力増進をはかる「秋ワラ処理」を行ってほしいです。「秋ワラ処理」を行うと、ワラが発酵分解して、糖や有機酸をつくります。この糖や有機酸は、ミネラルを溶かし、キレート化して、イネに栄養ミネラルをより吸収し易くさせます。よって、栄養ミネラルの施肥は、「秋ワラ処理」の発酵鶏糞施用時にいっしょに施用するのが、もっとも効果的な施肥となります。
【①カルシウム(石灰)】
カルシウム(石灰)は、細胞壁の形成、細胞膜の健全維持に必要です。よって、根の伸長と健全維持に欠かせないミネラルです。土壌中のカルシウムが減少すると、根は根自体が分泌する根酸を中和することができず、自滅してしまいます。具体的には赤くなり、死んでしまいます。カルシウム(石灰)は、デンプンの転流に関与しており、着粒数を増やす役割があります。土壌分析の値を基に施肥設計を行い、不足分は「カキガラ石灰」を施用します。
【②マグネシウム(苦土)】
マグネシウム(苦土)は、葉緑体が光合成を行なうのに必要不可欠なミネラルです。デンプンの生産と転流に不可欠なミネラルです。生命エネルギーに関係しているリン酸の吸収にも大きく関わっています。マグネシウム(苦土)は、植物の生命活動のほとんどすべてに関係する重要なミネラルです。イネの収穫部分であるお米にも多く含まれています。土壌分析の値を基に施肥設計を行い、不足分は「水酸化マグネシウム」を施用します。マグネシウム肥料には、水に溶けやすい水溶性の「硫酸マグネシウム」があるのですが、硫黄成分が多過ぎるため、夏に湛水栽培を行う水稲では、過剰な硫黄が硫化水素の発生源となり、根を痛める可能性があるため、硫黄成分の入っていない、ク溶性の「水酸化マグネシウム」を使用します。
カルシウム(石灰)とマグネシウム(苦土)は、収量・品質・美味しさ・病虫害抵抗力を向上させるために欠かせないミネラルということができます。
イネの収穫部分は種子です。よってカルシウムもマグネシウムも根から吸収されて、種子の中に貯留され、収穫されることで、圃場の外へ持ち出されていきます。つまり、収穫することで、土壌中からは減少します。カルシウム・マグネシウムの減少量を土壌分析を行うことでモニタリングして、施肥することで、不足分を補うことで持続的な収量・品質・美味しさ・病害虫抵抗力を維持することができます。
【③鉄とマンガン】
鉄とマンガンは、土壌のpHおよび酸化還元を非常に受けやすいミネラルです。湛水栽培を行う水稲栽培圃場では、還元されて、水に溶けやすくなる傾向があります。鉄とマンガンは、どちらも土壌細菌も積極的に利用するため、増殖した細菌に取り込まれて、土壌中から欠乏する場合があります。「堆肥はマンガンを喰らう」という言葉があります。有機物の施用で、土壌細菌が増殖し、その結果、土壌中の可溶性のマンガンが極端に減少する場合があります。マンガンが欠乏しているのか、土壌細菌に取り込まれ一時的に利用できない状態になっているのか、見極める必要があり、土壌分析をし、現状値を調べることで、判断材料とします。植物体内のマンガンの90%は、葉緑体の水分子分解酵素に使われています。種子が形成されてくると、葉緑体を分解して、マンガンを種子へ送ろうとします。葉緑体がなくなると、デンプンがつくれなくなるので、葉緑体は延命させたいところです。そこで、穂肥の時期にマンガンを追肥して、葉緑体を延命させるという技があります。土壌分析の値を基に施肥設計を行い、不足分は「硫酸マンガン」を施用します。マンガンは施用量が少ないため、硫黄成分を持っていますが、硫化水素が発生して根痛みするということはありません。
【④リン酸】
水稲栽培を行う時は、リン酸の欠乏に注意が必要です。リン酸は生命エネルギーの一時的に貯めておくできるミネラルです。よって、生長、開花、種子形成と種子の登熟に必要不可欠なミネラルです。収穫部分が種子のお米には、なくてはならないミネラルです。また、湛水栽培を行う水田の場合は、水に溶け出したリン酸が、水自体の自重で、地下へ浸透していく作用で、下方向へ拡散し、表層で欠乏する場合があります。イネに限らず、植物はすべて、リン酸欠乏に対するサバイバル戦略をもっています。それは生育の初期の段階で、リン酸欠乏を感じると、体内にあるリン酸を効率よく使いまわすという遺伝子が発現し、この遺伝子が発現してしまうと、土壌中に、リン酸があっても、積極的に吸収しなくなります。よって、リン酸の追肥はほぼ効かないことが知られています。この特徴により、リン酸は基肥でしっかり施用する必要があるミネラルとなっています。イネの場合は、苗の時にリン酸欠乏を感じさせてしまい、生育不良になる場合もありますので注意する必要があります。土壌分析の値を基に施肥設計を行い、不足分は秋ワラ処理時の「発酵鶏糞」の量を増やして対応します。リン酸はミネラルの中で唯一、酸化された状態のままで吸収され、植物体内でも、酸素と結合したリン酸の状態で働きます。土壌にアルミニウムなどプラスイオンのものが多くあると、これと結合して、不溶性になってしまうという性質もあります。このような性質があるため、リン酸は発酵有機物として施用した方が、よく吸収することが知られています。このようなことから、水稲栽培では、秋ワラ処理時の「発酵鶏糞」の施用量を増やして不足分に対応します。
リン酸欠乏の対策としては、下方向へ拡散しているので、「天地返し」を行うことで、リン酸が豊富な下層部を表層部へもってくるという方法。冬季に堆肥を施用して野菜を栽培することで、土壌中のリン酸量を増やす方法などもあります。
(3)土壌分析の値からCECを求めることで精密な施肥量を決めることができる
上図(右)は、土壌の塩基飽和度(%)と土壌のpHの相関図を示したものです。土壌のpHから土壌の塩基飽和度(%)の値を推測し、土壌分析で得られたカルシウム・マグネシウム・カリウムのアルカリ3成分の値から、土壌のCEC(陽イオン交換容量)を上図(右)の計算式で導き出すことができます。そして、CEC(陽イオン交換容量)を求めることで、その土壌におけるカルシウム・マグネシウム・カリウムのアルカリ3成分の施肥可能な上限値を求めることができます。
施肥を行う前に、CEC(陽イオン交換容量)を調べることは、とても重要です。CEC(陽イオン交換容量)は、ミネラルを入れることができる、土壌の器の大きさです。CEC(陽イオン交換容量)が小さな土壌=ミネラルが入る器の小さな土壌では、カルシウムの許容上限が小さく、少しのカルシウムでいっぱいになってしまい、もうそれ以上入れることができません。もし、上限値を超えてカルシウムを入れたとしたら、カルシウムは土壌に吸着することなく、あふれ出して、土壌のpHを高くし、作物がつくりにくくなってしまいます。
逆にCECが高い土壌=ミネラルが入る器の大きな土壌の場合、カルシウムの許容上限値が高く、たくさんのカルシウムを入れることができます。しかし、大きな器には、それなりにたくさんのカルシウムをいれなければ、土壌によってカルシウムが薄められてしまい、作物の根がカルシウムを吸収しようとしても、水に溶け出してくる量が少なく、つまり薄まってしまっていて、十分なカルシウムを得ることができません。
CECの大きさは、器の大きさにたとえられます。上図のように、CECがそれぞれ10、20、30という3つの圃場にカルシウムを100㎏/10a施用した場合。CEC=10の土壌では、pH=6.0からpH=6.5まで上昇します。しかし器の大きなCEC=20の土壌では、pH=6.0からpH=6.25までしか上昇しません。さらに器の大きなCEC=30の土壌では、pH=6.0からpH=6.16までしか上昇しません。つまり、CECが大きい土壌ほど、土壌によってカルシウムが薄められてしまうのです。CEC=10の土壌では、カルシウム100㎏で㏗=6.5にすることができますが、CEC=20の土壌では200㎏、CEC=30の土壌では、300㎏が必要となるのです。
CECが大きな土壌には、よりたくさんの栄養成分を施用することができます。CEC=10の土壌では、カルシウム100㎏/10aで、pH=6.5となりますが、CEC=20の土壌で、pH=6.5にするには、カルシウム200㎏/10aが必要です。CEC=30の土壌で、pH=6.5にするには、カルシウム300㎏/10aが必要です。
作物の根がカルシウムを吸収する量が同じ場合、CECが小さい、CEC=10の土壌では、100㎏しかカルシウムが入っていないため、作物を収穫するより先に、土壌中のカルシウムが作物に吸収しつくされてしまい、途中で足りなくなってしまうかもしれません。逆にCECが大きい、CEC=30の土壌では、300㎏のカルシウムが入っているため、余裕があります。
しかし、カルシウムが300㎏も入る、CEC=30の土壌に、実際には100㎏しかカルシウムが入っていない場合、カルシウムは土壌に薄めらえて、3分の1の濃さでしか作物に供給することができません。
CECを調べて、まずは、カルシウム・マグネシウムをその土壌が許容できる上限値まで、肥料を施肥する必要があります。土壌の器の大きさに合わせて、しっかり施肥することで、収穫量向上・品質向上・病害虫抵抗力の向上の基礎となる、作物の生育の安定が得られるのです。
CECが大きく、たくさんのカルシウムを入れなければならないのは、コストが掛かり過ぎて損と考える人もいます。また、CECが小さく、少しのカルシウム施肥量で済むので、得をしたと考える人もいます。現代の農業では、カルシウムは生産に必要な原料であり、生産コストと考えてしまいますが、実際は。土壌へ施用するカルシウムは資産であると考えた方がよいのです。カルシウムの購入費用を減価償却することは、現在の会計規則ではできませんが、CECに基づいて、カルシウムの許容上限値まで、しっかり施用したカルシウムによって、作物栽培を安定させることができます。農業において圃場は生産工場なので、圃場の生産能力や安定生産性を高めることは非常に重要です。よって、圃場に施用するミネラル肥料は、生産に必要な原料コストというよりも、圃場自体の性能を向上させる投資なのです。
圃場に施用されたカルシウムなどのミネラル肥料は、蒸発して消えてしまうことはありありません。作物によって吸収された分が、出荷されることで圃場の外へ持ち出された分だけ、土壌から減っていきます。また、雨水や潅水によって溶け出したカルシウムは、水と共に下方向へ拡散していきますので、これにより表層では薄まってしまうこともあります。よって、毎年、土壌分析をして、土壌がどのように推移しているのかを確認し、不足が生じた場合は、肥料によって補う必要があるのです。根の届く範囲の全域で、しっかりミネラル栄養素が足りているという状態をつくれば、その後、品質・収量・病害虫抵抗力を安定させることができます。
上図は、徳島県阿南市那賀川町で水稲栽培を行っている生産者が管理している圃場のカルシウムの現状値とCECに基づく許容上限値を示したものです。
青色は現状で土壌に入っているカルシウムの値です。オレンジ色は不足分です。緑色は過剰分です。CECが一番高い、一番上の土壌には、現状でカルシウムが339㎏/10aも入っています。この値は、どの土壌よりも、単位面積当たりのカルシウム量が多いです。しかし、この土壌のカルシウムの許容上限は、502㎏/10aなので、さらに残り163㎏/10aのカルシウムを施肥しなければなりません。
CECが大きい土壌から、小さい土壌まで、さまざまにありますが、この中で、もっとも美味しいお米が収穫できる可能性が高い圃場はどれかというと、それはCECが最も大きい圃場です。美味しいという品質だけでなく、収量もたくさん獲れます。その理由は、土壌に品質と収量を支えるだけの栄養成分を入れることができるからです。逆に、CECが小さい圃場では、品質や収量を上げようとしても、栄養成分が入らないため、不可能なのです。実際に、CECが最も大きい土壌と、最も小さい土壌では、カルシウムが施用できる量が2倍以上も異なります。



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