2025年8月29日金曜日

【有機水稲⑧】穂肥と実肥

 【有機水稲⑧】穂肥と実肥

(1)穂肥と実肥の必要性
なぜ、イネの栽培において追肥が必要なのか? それは、イネは葉と茎をつくるために、基肥窒素をすべて吸い切ってしまい、穂をつくるときには、もう土壌中の窒素が切れてしまっているからです。イネは穂をつくる余力をまったく残さず、根の届く範囲の窒素を根こそぎ吸収しつくして、葉と茎を全力でつくります。そのようなイネの性格を人間に方で変えることは不可能なので、人為的に穂をつくるための窒素と、種子を大きく重くするための窒素を追肥で与えます。


植物の生長は、光合成を行なうために葉と茎をつくる栄養生長と、子孫を残すために花を咲かせて種子をつくる生殖生長に分かれます。イネは葉と茎をつくる栄養生長で基肥の窒素をすべて使い切ってしまいます。よって、花や種子をつくるときには、土壌の窒素は切れてしまっています。自然状態では、葉の中の葉緑体を分解して種子へ送って、種子を充実させます。人為的な農業では、収量・品質・食味を向上したいので、生殖生長に必要な窒素を追肥で施用するのです。


化学肥料栽培の水稲は「V字」、有肥料栽培の水稲は「への字」と言われたりしますが、イネを栽培する場合は、「V字」と「への字」とは何について語っているのかについては知っておいてほしいので、はじめに解説します。

上図(左)の「V字稲作」とは、イネの生育の特徴を表現したものです。イネは基肥の窒素を、葉と茎をつくる栄養生長ですべて吸収しつくし、使い切ってしまうため、生長点が生殖生長に切り替わってからの窒素の供給が不足するため、穂をつくるための窒素と、種子を大きく重くするための窒素を追肥で与えてあげる必要があるということを図解したものです。

追肥は穂肥・実肥と2回に分けて行います。①穂肥の施用目的は、葉や茎が成熟し、生長点が幼穂に移った時点で、幼穂に対して、即効性のある窒素で1.5㎏/10aを追肥することで、着粒数を増やすことを目的としています。穂肥を施用することで、穂は長くなり、収量が増えます。②また、実肥の施用目的は、種子の充実に伴い、葉の中の葉緑体が分解されて、その栄養が種子に送られます。しかし、葉緑体を失ってしまっては、もうデンプンをつくることができないので、即効性のある窒素で1.5㎏/10aを追肥することで、葉緑体を延命させて、収穫のその日まで、光合成をさせて、可能な限り実を大きく重たくします。

イネの栽培においては、田植えの直後に、一斉に活着し、できるだけスムーズに一斉に分ケツし、一斉に出穂させることで、一斉に登熟させることできます。登熟のばらつきを少なくすることで、美味しいお米になります。食味の向上は、品質の向上だけでなく、収穫量も向上させ、病害虫抵抗性も向上させます。

一斉活着、一斉分ケツ、一斉出穂を実現させるためには、水によく溶け、すぐに吸収されて、すぐにイネの葉緑体になれるという窒素肥料が必要です。よって、フィッシュソリブル系のアミノ酸肥料を使用するのが良いです。フィッシュソリブル系のアミノ酸肥料は窒素化学肥料よりも、早く溶けて、早く効き、吸収がよく、すべて吸い切られてしまうため、だらだらと窒素が効くということはありません。フィッシュソリブル系のアミノ酸肥料を基肥で使用する場合、自ずと「V字稲作」になってしまいます。

上図(右)の「への字」とは、地力窒素を表現したものです。温度の上昇と共に、土壌中の細菌の活動が活発になり、細菌の死骸由来のさまざまな生理活性物質などが土壌中に放出されます。この中には窒素も含まれますので、気温の上昇と共に、イネが利用できる土壌細菌由来の窒素も増加していきます。気温の上昇と共に増加し、気温が低下すると減少するので、山形をしています。V字に対抗してへの字と表現したものと考えられます。

しかし、イネの栽培の場合、窒素がだらだらと長く効くことはよくありません。背が低く実をつけない無効分ケツを増やし、だらだらと供給される窒素によって茎が伸びると倒伏する可能性も高まります。よってイネの栽培には、窒素の肥効が緩やかな堆肥の使用は危険を伴います。また、米ぬか、菜種油粕、魚粕など、成分がタンパク質のものを窒素源として施用しても、これらが土壌細菌に分解されて窒素としてイネに効くかどうかは、実は確実ではありません。土壌中ではタンパク質は腐敗してしまいイネの根を痛める可能性もあります。また、湛水栽培のイネの場合、腐窒素ガスになり消えてしまうこともあります。

堆肥の施用は控えた方が良いですが、秋ワラ処理のために発酵鶏糞を使用することはお勧めしています。秋ワラ処理の目的は、冬の間にワラのセルロースを発酵分解して、イネの根が吸収できる水溶性炭水化物にし、これによって生育を促進させるためです。秋ワラ処理を行わない場合は、ワラは冬の間は冷蔵保存されてしまい、ワラは湛水の嫌気状態では腐敗しやすく。次の年のイネ栽培において、水温の上昇によって腐敗し、硫化水素などのガスを発生させて、根痛みの原因となります。よって秋の内に窒素を加えて発酵分解してしまいます。

秋ワラ処理時に使用する発酵鶏糞の窒素量の目安は4㎏/10aです。このうち半分の2㎏/10aが地力窒素となってイネに効いてきます。イネに必要な基肥窒素量は、植え付け密度と地力によって異なりますが、平均すると10㎏/10aです。この内、2㎏は秋ワラ処理時の発酵鶏糞によって既に施肥されていますので、8㎏/10aとなります。全体の5分の1(20%)が地力窒素となっている訳です。しかし、イネの栽培においては、ワラの発酵分解処理の目的以上に、堆肥や有機物を施用することは、イネの生育促進にはならず、逆に生育不良の原因になることも多いのです。特に窒素を含んだものは、それがだらだらと効かないようにしなければなりません。

(2)穂肥と実肥の施用理由と施用時期
①穂肥の施用時期は花が咲く40日前~30日前です。これは花の咲く日より逆算する必要があります。田植えと稲刈りが毎年、同じ時期であるなら、花が咲く時期も、毎年同じ頃になります。施肥目的は1穂あたりの着粒数を増やすことです。
②実肥の施用時期は葉の間から、どこ1ヶ所でも穂の頭が出た時です。施用目的は千粒重(通常は21g)を増やすことです。1粒1粒を大きく重たくすることが目的です。

(3)穂肥が効くメカニズム
穂肥の目的は、1穂あたりの着粒数を増やすことです。着粒数が増えるとは、上図(右)のように、イネの穂は第一枝梗と第二枝梗で形成されています。穂肥を施用することで、第二枝梗を充実させることができます。第二枝梗ができることで、穂は明らかに長くなります。

穂肥を施用しない場合、基肥の窒素は葉と茎の生長のために使い尽くされて、穂の形成時には、切れてしまっています。つまり、穂の細胞をつくるための窒素が不足しています。地力窒素をあてにしたいところですが、湛水状態で栽培するイネの場合、窒素は窒素ガスとなって流亡しやすく、もし、残っていても茎と葉をつくってしまい、無効分ケツを増やしてしまいます。または、茎を伸ばして徒長してしまい倒伏させてしまうことになります。基肥の窒素は使い尽くされて、一旦切れてリセットされた後で、改めて、窒素を施用するのが「穂肥」になります。

イネがちょうど窒素が欲しいと要望しているときに、ちょうどよい量の窒素を施用するというのが技術になります。


穂肥の施用する時期は、花が咲く日から逆算して40日前~30日前までです。この時期に幼穂を形成するための細胞分裂が行われています。その時を狙って、アミノ酸肥料で1.5㎏/10aの窒素を施用します。

上図(左)は幼穂の長さの目安です。イネの幼穂は25日ほどで出穂します。穂肥のタイミングは幼穂の細胞分裂が盛んな形成期なので、これより前の40日前~30日前となります。この時期のイネの姿は分ケツ数は最大に近くなっていますが、イネの背丈はまだ高くなる前であり、穂肥を施用するには、すこし早過ぎるのではないかと不安になるかもしれません。イネは幼穂が形成される頃になると、太い根から綿根を出ます。イネの株本の泥を洗って、太い根から綿根が出ていたら「穂肥」を施用してよいということになります。

施用時期は①暦で確認、花の時期から逆算しておおよその日程に検討を付けます。②綿根を目視で確認。

穂肥を施用する時に、水酸化マグネシウム20㎏/10aと硫酸マンガン5㎏/10aも追肥します。マグネシウムとマンガンは、葉緑体の分解を防ぎ、葉緑体のデンプン生産を維持します。イネは種子を充実させるために、葉の中の葉緑体を分解して、種子に送ってしまいます。葉緑体がなくなってしまうと、もうデンプンが生産できなくなってしまうので、葉緑体を延命させるために、マグネシウムとマンガンを追肥します。植物体内のマンガンの90%は葉緑体の中の水分子分解酵素に使われています。種子形成に伴う、古い葉緑体の分解はマンガンの欠乏によって促進されてしまうことがわかっているため、予防の意味でマンガンを施用して、葉緑体を延命します。また、マンガンはお米の甘味を強くする作用があります。これはマンガンが油脂の生成と関係しているためと考えられています。水酸化マグネシウム20㎏/10aは、マグネシウム成分で10㎏/10aです。この10㎏/10aというマグネシウム量は、収穫したお米に含まれているマグネシウム量と同じ量です。このマグネシウムはお米のヌカの部分に含まれています。お米は種子なので、発芽して葉緑体をつくるために、かなりしっかりマグネシウムが蓄えらえています。また、マグネシウムは、健全な細胞分裂、エネルギー生産、リン酸の吸収・運搬などに必要なミネラルです。よって、マグネシウムが十分に吸収できる状態をつくることは収量向上・品質向上につながります


上図の写真は綿根を確認するために1株抜き取ったものです。抜き取らずとも、株本を洗うことで、綿根を確認することができます。

(4)実肥が効くメカニズム
イネの栽培においては、穂肥は必ず行った方が良いです。実肥については、生育が良く、天候が良い時には、必要になります。種子がたくさん付いている場合、デンプンの生産量が追い付かないときには、1つ1つの粒が小さくなってしまいます。よって実肥を追肥して、葉緑体を延命し、デンプンの生産を持続させます。天候が悪く、日照が悪い場合は、実肥は施用する必要はありません。日照が悪い場合は、実肥を施用しても品質の向上が期待できないからです。

また、この栽培スタイルでは、カルシウム(石灰)を土壌に施用できる上限いっぱいまで施用し、㏗=6.5に保ち、根を太く白く健全にし、ミネラル吸収を促進する綿根がたくさん出るようにしています。根量が多いことで、着粒数は多くなり、長い穂となります。そして、カルシウムはデンプンの転流を促進する作用があるため、1粒1粒の種子は重たくなりますが、よく引き締まっているため小振りになる傾向があります。消費者は美味しいお米を求めていると思われますが、お米の流通においては、1粒1粒の大きさがある程度大きくないとダメとなります。味は二の次、見た目重視です。よって、粒を大きくするために実肥が必要になります。美味しく、大きく、重たいお米を目指します。

お米の収穫時の葉の色は、薄くはなっていますが黄金色(こがねいろ)ではありません。これは重要なことです。イネの場合、種子の登熟に伴い、葉色は薄くなていきますが、小麦のように葉が黄金色(こがねいろ)になるということはありません。収穫時にはまだ薄い緑色を保っている必要があります。

出穂の頃になると、葉の色がやや薄くなります。特に高温時に登熟する場合は、登熟するのに比例して葉の色が薄くなる早さが加速します。葉の緑色は葉緑体の色であり、葉色が薄くなるということは、葉緑体が分解していることを示します。イネは種子にできる限りの栄養を蓄えさせようとするので、種子の登熟が進むと、葉緑体は托割を終えて、分解されて、葉緑体を構成していた窒素やミネラルが種子へ転流していきます。このこと自体はイネの生き様であり、人間の栽培技術で止めることはできません。しかし、人為的にできることもあり、それが実肥を施用して、窒素を補給し、葉緑体を延命することです。

出穂の時に、葉色を調べ、葉色が薄い場合は、追肥をすることで高温障害を回避できます。あまりにも高温の日が続く場合は、ますます葉色が低下し、光合成能力が下がって、デンプンの生産能力が落ちてしまい白ハゼ、乳白色米になることがあります。出穂時の窒素の追肥は、白ハゼや乳白米を防止する効果があります。

上図の「葉色カラースケール」は昔からよく使われています。出穂の時に、5と6の間くらいの色が適切です。機械で計測するSPAD値では、34を目安とする場合が多く、出穂時に34よりも値が低い場合は、窒素の追肥が必要と考えられます。SPAD値は、葉色を数値化したものです。葉色は、葉緑体のクロロフィル量と関係が深く、よって光合成能力を示すものと考える場合もあります。SPAD値=葉色カラースケール値×7.8+1.6で換算できます。葉色カラースケール値5=SPAD値40.6となります。追肥が必要となるSPAD値=34は葉色カラースケールでは4.15となります。

SPAD値のSPADとは、もともとSoil & Plant Analyzer Development(土壌作物生育診断機器実用化事業)の略で、コニタミノルタが「葉緑素計」の名称としてこれを使用し普及したため、SPAD値=葉色の濃さとして一般に定着しました。


上図は白濁米ができる理由について解説したものです。お米の白濁部分は、デンプンの結晶が小さいために白ぽくなります。デンプンの結晶が大きいものは、透明になり、透き通り、いわゆる「水晶米」となります。そして、美味しいお米は、デンプンの結晶が大きく充実しているものとなります。


お米は光合成によって生産されたデンプンが主なので、日射量が多いほど、デンプンの結晶が大きく発達し美味しく、品質が良いお米になります。逆に、日射量が低い場合は、白はぜ、乳白米になりやすくなります。また、近年、お米の品質が低下しているのは、地球温暖化により、猛暑の日が多くなり、夜温が下がらないためと言われています。あまりに高温になると、①葉緑体も光合成ができなくなってしまいます。②高温になると、種子の中でデンプンをつくる酵素が働かなくなります。③デンプンの転流量よりも呼吸量が増えて、生産されたデンプンが消費されてしまうということにもなります。

上図(右)のような、出穂後の日射量の多少と出穂後20日間の平均気温の高低の関係で、乳白米や背白、腹白、基部未熟が生じるという考えもあります。しかし、日照と温度だけが原因ではないという考えもあります。

お米の品質低下、食味低下は、地球温暖化に伴う高温による自然災害なので仕方がないとあきらめてしまう前に、人災の可能性も考える必要があります。例えば、水不足による光合成不足、デンプンの転流不足が原因の可能性です。


お米の胚乳にデンプンが溜まっていくのには順番があり、上図のように①中央➡②腹➡③背➡④基部と順番に登熟していきます。よって、中央部が白くなる心白粒は、中央部のデンプンの結晶が生長する時期に、水不足があり、デンプンの生産が少なかったか、種子へのデンプンの転流が少なかったことが原因と考えらえています。


(5)中干しの必要性はない
中干しを行う理由は、主に2つあります。①秋落ち防止:硫酸還元菌によって発生する硫化水素が根痛みを引き起こし、収量減少を招くことが多かったため、硫酸還元菌を活動できなくするために、水を落して、土中に酸素が行きわたるようにしていた。②窒素供給の強制中断:もう一つは、中干しをして、地面をひび割れさせて、わざと根を切り、余分な窒素を吸わさないようにするためです。

硫安や硫酸マンガンなど硫酸イオンを含む肥料を使用しない場合、淡水で育てる水田で、硫酸還元細菌の活動が活発になることは少なく、硫化水素による根痛みが原因の秋落ちの心配はありません。また、窒素も必要な量だけ精密施肥ができるなら、中干しを行って、人為的にイネの根を切り、窒素の強制中断をする必要もありません。むしろ、中干しをして根を切ったり、光合成を行なうために必要な水の供給が減ったりすることは、収量増、品質向上、美味しいお米づくりには、マイナスの要因ばかりとなります。

現代における中干しの意味として、メタン生成菌がつくるメタンガスを抑制するというものがあります。日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出と森林などによる吸収をプラスマイナスゼロにするゼロカーボンに取り組んでいます。2013年を基準年として、2022年には22.9%削減できており、2024年時点で、計画通りに削減が進んでいます。2030年には46%削減し、2050年には100%削減となる計画です。

「グローバル・メタン・プレッジ」は世界のメタンの排出量を2030年までに2020年比で30%削減することを目指すものです。米国と欧州連合が主導するイニシアティブとして、2021年のCOP26 にて発足し、日本を含め、103の国と地域が署名しています。世界経済の70%を占め、人間活動によるメタン排出の約半分に相当する規模です。実現したら、2050年までに温暖化を0.2℃削減できます。


日本における2019年における温室効果ガスの排出量は12億1200万tです。うち農業分野からの温室効果ガスの排出量は4,747万tで、全体の3.9%です。農業分野の細かい内訳として、25%(1195万t)を占めているのが水田から発生するメタンガスとなっています。


IPCC報告書のデータによると、世界のメタン発生源のうち水田が占める割合は12%で、湿地からの発生21%、反芻動物からの発生15%に次いで3番目に多い発生源です。年間のメタン発生量は535Tgと推定されており、年間のメタン消失量は515Tgと推定されており、差し引き年間で20Tgづつ増加していると推測されています。単位:T(テラ)=1兆です。


メタン生成菌には、2つのタイプがあり、①水素と二酸化炭素を原料にメタンと水をつくるタイプと、②酢酸を原料にメタンと二酸化炭素をつくるタイプです。メタン生成菌は自然生態系の中で有機物分解の最終段階をになっています。海水中では、淡水よりも硫黄分が多いため、硫黄還元細菌がメタン菌よりも優勢になります。淡水中では、硫酸イオンが少ないため、硫酸還元細菌が活動できず、発酵細菌の活動が活発なため、有機物は二酸化炭素、ギ酸、酢酸にまで分解されます。これにより淡水中のメタン生成は、酢酸由来が60%、水素と二酸化炭素由来が40%と推定されています。水田でのメタン発生の原料は、前年度の稲ワラなどの有機物です。その稲ワラは、イネが空気中の二酸化炭素を吸収してつくったものです。メタン菌が食べてメタンガスをつくっても、メタンガスの対流圏での寿命は12年ほどで、二酸化炭素と水に分解されてしまいます。現在の地球温暖化の原因は、地下で眠っていた化石燃料を掘り出して、燃焼することで発生する二酸化炭です。メタンガスの温室効果は二酸化炭素の28倍もありますが、水田におけるメタンの発生は自然循環の範囲の中に納まるものではないかと考えます。よって水田から発生するメタンガスについては、ゼロカーボン推進の項目からは外してもらいたいところです。

イネを栽培することで二酸化炭素を吸収しお米にているので、すでにゼロカーボンに貢献していると考えることもできます。また、水田に湛水することと、イネが蒸散することで、水田は気温を2℃ほど下げていることが知られています。水田を維持するために日本には総延長が地球4周分もの用水路が、毛細血管のように張り巡らされていて、水を土壌へ涵養し、生物の多様性の保全に貢献しています。地球温暖化は大問題ですが、水田のメタン発生を抑制するために、肝心のお米の生産がうまくいかないことになるのは本末転倒です。

秋ワラ処理を行うことは、ワラの発酵分解を促進しますが、ワラは酢酸に分解されてメタン生成菌のエネルギー源となりメタンガスを発生させてしまいます。よって、中干しを行ってメタン生成菌の活動を止める方法が取られていますが、美味しいお米をたくさん収穫することを目指すとき、中干し自体が、意味のない行程となってしまいます。


(6)食味を向上する方法
上図はサタケのお米の食味計です。食味計は、アミロース量、タンパク質量、水分量、(玄米の場合は脂肪酸度を測定項目に追加)を計測し、メーカー独自の計算式によって、100点満点中何点という成績を、わずか40秒くらいで出してくれます。

①アミロース量
アミロースとアミロペクチンの比率によって穀物の粘り気が変わってきます。分子量が小さいアミロースの比率が低いもの(アミロペクチンの比率が高いもの)ほど粘り気が強くなります。アミロース比率が高く粘りが弱いものを「粳(うるち)」といい、アミロース比率が低く粘りが強いものを「糯(もち)」といいます。うるち米の場合、本来はアミロース比率は、もち米よりも高いです。お米の食味計は、アミロース含有量を測定して、アミロースの割合が低いほど、粘りがあり美味しいと判断しています。普通レベルで18.5~20%です。

②タンパク質量
タンパク質の割合が低いほどふっくらと炊き上がるため、お米の食味計はタンパク質が低い方が美味しいお米と判断しています。普通レベルは6.2~7.2%です。

③水分量
水分量が少ない場合、つまり乾燥し過ぎていると、お米は割れてしまうことも多く、食味も下がると考えられています。お米の適正水分量は14~15%であり、食味計は15%に近いほど美味しいと判断しています。

④脂肪酸度
玄米の場合は脂肪酸度も測定されます。玄米は古くなるほど脂肪酸度が上昇します。これは脂肪が脂肪酸とグリセリンに加水分解されて、遊離の脂肪酸が増加していくためです。お米は新米な方が美味しく、また、15℃前後で低温貯蔵することで、新米の美味しさを長持ちさせることができます。新米および低温貯蔵された玄米の脂肪酸度は20以下で、古米化した玄米は30を越えます。

美味しいお米は、①分子量の小さいアミロースの割合が低いもの。つまり、デンプンの結晶が大きく発達しているものです。②タンパク質量が少ないもの。つまり、窒素が少ないものです。

穂肥・実肥を行うことで、お米の味が美味しくなるメカニズムについて解説します。窒素を追肥することで、葉色を維持することができます。葉緑体の崩壊を防ぎ、延命します。これがデンプンの生産量を増やすことに直結します。イネも水の吸収は葉の気孔を開くことによる蒸散に依存していますので、葉緑体が健全であることで、蒸散量が増え、根からの水の吸収量も増えます。水がしっかり吸収できてることで、水に溶けているミネラルの吸収もよくなり、お米の品質が向上します。水はデンプンの原料です。しっかり水が吸収できていることで、光合成量が増え、デンプン生産量量が増え、葉から種子へのデンプンの転流も促進されます。イネの体の中でもっとも多く窒素を含んでいるのは、葉緑体です。葉緑体の崩壊を防止することで、種子への窒素の転流が少なくなり、種子の中のタンパク質量を減らすことができます。

長く続く減反政策もあり、お米の収量を向上させることが悪のように語られ、窒素を減らし、収量を減らすことで美味しいお米をつくることができると言われたりもしました。科学的な根拠として、食味計のタンパク質量を減らすことで高得点になるということもよく語られましたが、実際は、味が落ちるので窒素は施用しないと、穂肥・実肥を施用しない場合、葉が力尽きてしまい、種子のデンプン量を減らすことになってしまいます。

窒素を減らすことは、葉緑体がつくれないということであり、デンプン生産能力が落ちることになり、虚弱体質な不健康なイネとなってしまいます。これは美味しいお米づくりをめざす方向とは、真逆の方向ということができます。美味しいお米は、健康優良のイネを育てることが基本です。それは健康優良に育つための土づくりから始まり、イネが健康に育つための栄養設計=肥培管理を行うことであり、追肥など人為的に、さらに改良を加えることができることを、積極的にしっかり行うことです。

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