【有機水稲⑤】基肥窒素の考え方

(1)イネの生長は二段階で行われる
上図は、調子が良いイネの生育を図解したものです。イネは二段階で生長します。第一段階は、分ケツが増える段階です。第二段階は、第一段階で増えた分ケツの背が高く伸びます。
これはイネ科の植物の特徴で、生長点を地面すれすれにしておくことで、草食動物に葉を食べられても、子孫を残すために花を咲かし種をつけるための生長点は食べられなくするという生存戦略です。
上図は、4月20日に田植えが行われたコシヒカリの生長を図解したものです。根がどんどん伸びて、分ケツが増えていきますが、背は高くなりません。6月10日までは背が低かったのですが、その後、1週間ほどで背がぐんぐん伸びて、水面は見えなくなります。

上図は、早生品種と晩生品種の違いについて解説したものです。作物の生長は、①葉と茎が伸びる「栄養生長」と、②花が咲き、実ができ、登熟する「生殖生長」に大きく分けることができます。「栄養生長」と「生殖生長」は細胞をつくる生長点の位置が変わる明確な変化です。
①「栄養生長」は、早生と晩生では異なります。「栄養生長」の中身は「基本栄養生長」と「可消栄養生長」に分けることができます。「可消栄養生長」はさらに①-A:感温性(高温によって早まる部分)と、①-B:感光性(短日によって早まる部分)で構成されています。早生品種は、感温性の部分が大きく、晩生品種は、感光性の部分が大きくなっているのが特徴です。
イネは亜熱帯の温度が高い地域が原産の作物であり、イネは本来、夏至を過ぎて昼の長さが短くなることで、生殖生長に移行する「短日植物」です。それが温帯の日本に伝播して、寒くなる前に種子を登熟させる必要性に迫られて、「短日植物」の性格が薄くなり、「可消栄養生長の感温性」の性格が強くなり、「基本栄養生長期間」が長くなった「ジャポニカ種」に進化します。コシヒカリに代表される早生品種は、その特徴が特に濃く、基本栄養生長が長くなり、可消栄養生長の感温性が長くなったものです。
日本で現在、主として栽培されている早生のコシヒカリの系統のお米は、イネが生育できるギリギリ最低の温度17℃になった直後に田植えが行われます。逆にいうと、わざと寒さに当てて栽培されています。まだまだ寒い時期に田植えされたイネは、寒さのために葉を伸ばすことができず、根を伸ばす方へエネルギーを使います。そして分ケツ数を増やしていきます。土壌に施用された窒素を吸収しつくし、分ケツ数が十分に取れたところで、温度が上がってきて、葉が一気に伸びて背が高くなります。葉の背が十分に長くなった所で、栄養生長から生殖生長に切り替わり、穂が出てきます。
温かくなってからコシヒカリを田植えすると、コシヒカリの感温性が働いてしまい、分ケツが増えない内に、背が高くなって、花が咲いてしまい、収量が低くなってしまいます。

日本は、南北に長い国です。同じ「コシヒカリ」でも、暖地の九州では、早生よりも、もっと栽培期間が短い品種とになります。中国四国地方や近畿地方では早生品種。東海・東山(岐阜・長野・山梨)・関東ではやや早生。北陸では中生となります。東北地方の中南部では晩生品種となります。同じ品種でも、栽培する地域によって栽培時期が変わってきます。このことには注意が必要です。栽培する地域の適正品種と栽培時期を確認することが重要です。
「あきたこまち」は「コシヒカリ」と「奥羽292号」の子どもの「秋田31号」のこと。「ひとめぼれ」は「コシヒカリ」と「初星」の子どもです。どちらもコシヒカリよりも、もっと早生としての性格が強い品種です。2023年度の日本のお米づくりの各銘柄の作付面積は、1位がコシヒカリ(33.1%)、2位ひとめぼれ(8.3%)、3位ヒノヒカリ(7.4%)、4位あきたこまち(6.7%)です。上位4種類で55.5%になります。
「あきたこまち」は秋田県では早生ですが、それよりも少し温かい北陸・関東・東山・東海では、早生よりも早い「やや早」となり、近畿・中国・四国では「極早生」となります。九州でも栽培されていますが、あまりに温かいところでの栽培は不向きです。

(2)一斉活着・一斉分ケツ・一斉出穂により一斉登熟を目指す
ほとんど、すべての作物において、初期の生育は非常に重要です。初期生育が良ければ、そのあまま収穫までうまくいく場合が多いです。逆に、初期生育が低迷してしまったら、途中から立て直し、良くすることは非常に難しいです。なぜ? そのようなことが言えるのかというと、それは植物が光合成を行なうことで生きている生物だからです。光合成をおこなっているのは、葉の中の葉緑体です。一番最初の葉が、しっかり光合成ができて、生命エネルギーの源であり、体をつくる物質でもあるブドウ糖を、しっかりつくることができれば、その最初につくったブドウ糖を使って、次の葉の中の葉緑体をしっかりつくることができます。後は葉の枚数が増えていくので、ブドウ糖を生産する量が増えていき、ますます生育が良くなっていくのです。
イネは、植物の中でも特に生育が早い、せっかちな植物です。よって、初期で躓いてしまったら、後から立て直すことは、非常に難しいのです。
収量を多くする。味を美味しくする。粒を大きく、デンプンの結晶が大きく、透明感があるお米にするなど、品質を向上させる。倒伏しないようにする。病虫害に対する抵抗性を高めるように栽培するためには、初期生育がとても重要になります。
よって、イネの栽培においては、田植えをしたその日の夕方には、もう新しい根が伸びて、葉の先端まで水が吸い上げられて、葉がピンと立っているようでなければなりません。イネは調子が良いと1日あたり2cmも根が伸びていきます。毎日、太い根がぐんぐん伸びていかなければなりません。どんどん分ケツして、葉が扇形に開くのが良いです。初期は、どんどん分ケツ数が増えて、最高分ケツ数に達した後に、一気に背が高くなり、すべての穂が一斉に出るのが良いです。穂が一斉に出ることで、一斉に花が咲き、一斉に登熟し、登熟具合が揃うことで、刈り遅れがなく、青米がなく、すべての実がほど良く熟して、美味しいお米が収穫できます。
お米づくりは「苗半作」と言われます。これは誇張ではなく、イネの栽培は、田植え時の活着の良さが、非常に重要になります。すべての苗が田植え直後に、一斉に活着すること。一斉活着によて、一斉分ケツが可能となり、一斉分ケツによって一斉出穂がおき、一斉出穂によって、一斉登熟が可能になります。圃場にあるすべての株が、遅れることなく、ほぼ同時に生育していくことが、美味しいお米づくり、品質の良いお米づくりには必要不可欠です。
お米づくりにおいて、葉と茎をしっかり作り、分ケツ数を確保するための基肥料は、一斉活着・一斉分ケツ・一斉出穂を実現できる性能を有した肥料でなければなりません。

(3)「ひし形」は生育不良・生育良好で「扇型」になる
最初の葉の中の葉緑体が光合成を行なってブドウ糖をつくることで、次に伸びてくる葉を育てます。新しい根がぐんぐん伸びて、次の葉がどんどん伸びることで、最初の葉に供給される窒素が、次の葉をつくることへ使われるので、最初の葉への窒素供給がなくなり、葉の生長が止まります。分ケツがどんどん増えて葉の枚数がどんどん増えていく場合、葉の長さは皆同じとなり、上図(右)のように扇形となり、葉は垂れず、ピンとV字になり、天を刺すようにまっすくになります。株元も少し開いて開帳型になります。
生育が悪い場合、最初の葉の葉緑体の光合成能力が低く、次に伸びてくる葉にブドウ糖をしっかり供給できず、次の葉が伸びるのに時間がかかってしまいます。本来は次の葉に共有されるはずの窒素が、次の葉へ十分に供給されず、最初の葉に必要以上に窒素が供給されてしまい、葉が徒長して、垂れてしまいます。葉の形は最初の葉が長くなり過ぎて、後からできる葉は、先の葉に窒素が取られてしまい、思うように生長できません。よって、イネの姿は「ひし形」になってしまいます。
イネは、非常に生育が早く、せっかちな植物です。その非常に早いイネの生育スピードに合わせて、迅速に供給できる窒素肥料が必要になります。溶けやすく、吸収しやすく、葉緑体をスムーズにつくることができるものがよいです。
上図(上)は「生育が良い場合」の1株の各穂の高さを比べたものです。何本か背が高いものがあります。この背の高い穂の本数は、その株が何粒の種から育ったものかを表しています。生育が良いと、全体の9割の穂の高さがほぼ同じになり、最後の数本が急激に低くなります。はじめの葉がしっかり光合成を行ない、ブドウ糖を生産することで、次に続く葉を育てます。はじめの葉の光合成能力が高く、ブドウ糖生産能力が高い場合、次の葉の生育を促進するため、次の葉の生育に窒素が取られて、はじめの葉のタテ伸びは止まってしまいます。葉の数に比例してブドウ糖の生産力は高まるため、葉が次々にスムーズにつくられることで、生育は加速していきます。よって最終的に、穂の高さが揃うことになります。そして土壌中の窒素が吸収しつくされるために、分ケツが止まり、背の低い無効分ケツの数はごく少なくなります。穂の高さが揃っているということは、出穂が同時であり、出穂が同時であることで、登熟具合が揃い、品質が良くなります。
上図(下)は「生育が悪い場合」の1株の各穂の高さを比べたものです。はじめの葉の光合成能力が低く、ブドウ糖の生産能力が低い場合、次の葉を育てるためのエネルギーを十分につくることができず、次の葉の生育は遅れます。次の葉の生育が遅れた分、はじめの葉に余分な窒素が供給されてしまい徒長してしまいます。徒長すると倒伏し易く、お米の収量、品質も低下します。土壌からの窒素の吸収がゆっくりになってしまうため、無効分ケツがダラダラと増えてしまいます。無効分ケツは穂をつけることができないため、無効分ケツが多いほど、施用した窒素が無駄になってしまっているといえます。穂の高さが揃っていないということは、よく登熟したものと、まだ登熟していないものが混ざってしまい、食味が落ち、品質が悪くなってしまいます。
上図(左)のように、生育が良く、分ケツが早く、分ケツがスムーズに進む場合、穂の高さが揃います。逆に、上図(右)のように、生育が悪く、分ケツが遅く、だらだらと続く場合は、穂の高さがバラバラになります。
穂の高さが揃うことで、登熟が同時に進み、熟れすぎも、未熟もなく、均一に登熟することで、食味が向上し、見た目も美しくなります。逆に、穂の高さがバラバラな場合、登熟にバラツキが起き、最も早い穂が熟れた時点で収穫した場合は、遅れた穂は熟しきらず、青米になってしまったり、収穫できなかったりします。遅れた穂は熟すのを待って収穫する場合、早い穂は熟し過ぎて、乾燥が過ぎて、割れてしまったり、油脂が多くなってしまいます。

(5)溶けやすいフィッシュソリブル系のアミノ酸肥料の使用
フッシュソリブルが原料となっているアミノ酸肥料は、水によく溶け、イネの根の吸収も非常にスムーズです。上図のように、タンパク質はアミノ酸がいくつもヒモ状に連なったものです。個体であり水に溶けません。しかし、タンパク質でも分子量が小さければ、小さいほど水に溶けるようになります。アミノ酸が数個くっついたペプチドはゼリーやゼラリンのような状態です。単体のアミノ酸になると液体で水に溶けます。
フィッシュソリブルは魚粕を製造するときに、魚粕を遠心分離機にかけて、魚肉と魚汁と魚油と水に分離する行程で、魚汁として抽出されるものです。発酵細菌によって発酵処理をして、タンパク質をアミノ酸に分解したものではないので、「抽出型アミノ酸肥料」と呼ばれることもあります。フィッシュソリブルは、グルタミン酸を多く含んでいて、水によく溶け、根からの吸収もよく、葉緑体をスムーズにつくる即効性のある窒素肥料です。
フィッシュソリブルが原料のアミノ酸肥料を実際にイネの基肥として使用した場合。フィッシュソリブルが原料のアミノ酸肥料は、根が吸収すると、根の先端の生長点での細胞分裂に使われるため、すぐに根を伸ばすことに使われます。よって化学肥料とフィッシュソリブルが原料のアミノ酸肥、それぞれを使用したときのイネの生育を比べると、①初期のイネの葉の生長は、化学肥料の方が、アミノ酸肥料よりも旺盛になります。しかし、これはイネにとってはよいことで、根がしっかり伸びることで、土壌中の広い範囲から、葉緑体をつくるために必要なマグネシウムや鉄、マンガンなどのミネラルを吸収することができるようになります。よって、②初期は化学肥料に負けていますが、分ケツが増えて、最高分ケツに至るのは、アミノ酸肥料の方が化学肥料よりも先になります。③最高分ケツに到達する時間が早いほど、その後の生殖生長に使用できる時間が長くなり、同時に、光合成ができる時間も長くなり、登熟に必要な時間も長くなります。これにより、より充実したお米に仕上げることができます。
湛水状態で栽培する水稲には、硝酸は使用できません。硝酸は水によく溶けますが、湛水状態の水田では、硝酸は地下へと浸透する水と共に流亡してしまいます。実際、1日の水の減りが2cmほどある水田が、収量が良く獲れます。窒素成分だけでなくさまざまな栄養成分が水に溶けて、それが地下へ浸透していきます。その浸透する水を追いかけて根が伸びていきます。イネの根が健康なとき、イネの根は1日2㎝も伸びます。また、湛水状態は酸素の少ない嫌気状態になりやすく、嫌気環境で活性化する脱窒細菌によって、硝酸は一酸化二窒素ガスや窒素ガスに分解されてしまい、土壌から失われてしまいます。よって湛水状態の水稲に使用する化学肥料は、マイナスに荷電している土壌粒子の表面に吸着しやすいプラスイオンである「アンモニア」が主に使用されます。アンモニアが主成分の化学肥料には、硫安(硫化アンモニウム)、塩安(塩化アンモニウム)、硝安(硝酸アンモニウム)の3種類があります。硫安は安価なため、もっとも良く使われています。
上図は、植物が反応性窒素を、アミノ酸に同化する行程を解説したものです。イネの場合、土壌粒子に吸着しているアンモニアを吸収し、クエン酸回路から放出されるグルタミン酸に、アデノシン3リン酸を消費して、アミノ基が2個あるグルタミンをつくります。グルタミンをつくる行程は、クエン酸回路に付随していますので、酸素がたくさんいります。イネの茎や根は、ストローのように中空であり、このストローを使って、光合成を行なったときにつくられた酸素を根の先端まで送ることができます。よって酸素が欠乏することなくアンモニアをグルタミンにすることができます。
生産されたグルタミンは、アミノ酸転移酵素によって、その他のアミノ酸に作り替えられます。一部は分解されてエネルギーにもなります。利用されないグルタミンは液胞の中に溜められ、生長に利用されます。窒素源をアンモニアにした場合、イネはアンモニアをグルタミンにすることが容易です。グルタミンは葉緑素の素です。よって、根の伸長よりも、葉の伸長の方が旺盛になります。

(4)基肥の窒素量の考え方
イネに限らず、作物に施用する窒素量は、葉の面積と比例します。これは根から吸収された窒素の8割近くが、葉緑体の中の葉緑体に使われるためです。よって、作物に対する窒素施用量は、葉の面積に比例します。
水田土壌では、窒素が効きにくい砂地と、窒素が良く効く粘土地があります。砂地では、窒素1㎏/10aで、穂が2本、粘土地で、窒素1㎏/10aで、穂が3本となります。つまり、窒素6㎏/10aで、窒素が良く効く粘土地で、穂が18本となります。
田植え機は、1坪あたりの植え付け株数が調整できます。1坪あたりの茎数は1200茎が最大です。これよりも1坪あたりの茎数が多くなると、風通しが悪くなり、収量が減ってしまいます。逆に収量が少ないときの対処方法として、まず一番に調べなくてはならないことは、この茎数です。1200茎を超えてはいけませんが、茎数が少なくて収量が獲れていないことはよくあります。田植え機を調整して植え付け密度を増やすか、窒素施肥量を増やすことで、1200茎になるように調整します。
窒素1㎏/10aで、地力が低い砂地で2本、地力が高い粘土地で3本です。1株あたりの茎数は、収穫後の稲株で確認することができます。
粗植にすることで収量が増えるということは、実際にあります。これは風通しが良くなるためです。通常、水田は中央部よりも、周囲の方が分ケツ数が多くなる傾向があります。これは風通しがよい周囲の方がよく分ケツが進むからです。広い平野部においても、かつては水田は長方形の短冊形が一般的でした。これは風通しを良くして収量を上げることができるという方法でした。現在では畔を取り払って、1枚あたりを大きくして、機械での作業効率を上げることが行われていますが、広すぎる水田の場合、中央部で、風通しが悪くなり、分ケツ数が減り、思うように収量があがらないことがあります。そのような場合は、田植え時に田植え機でUターンするとき、わざと1列植えない列をつくり風通しを良くするという方法が行われている所もあります。
尺角植え(30㎝✕30㎝の粗植え)をするという試みもありますが、この場合は1坪あたりの植え付け密度が非常に少ないので、1200茎の分ケツを確保するために、基肥の窒素量を増やす必要が生じます。
(4)倒伏防止の考え方
窒素を多く施用すると、徒長してしまい、茎がやわらかくなり、イネは倒伏しやすくなります。よって窒素肥料の施肥量を少なくし、倒伏を防ぐという方法が取られていることが多くあります。長く続く減反政策やコメ余りによって、収量が少ないことが良いことのように語られたり。量を多く獲ると、食味が落ちる。窒素肥料を多く使用すると味が落ちると言われたりしています。
倒伏の原因は、施用した窒素が、初期生育の分ケツ時に使われる量が少なく、温度が高くなって草丈が高くなる時期に、窒素が効いてしまうことも原因です。よってイネの栽培においては、初期生育時に窒素がしっかり効いて、分ケツ数が多くなるようにすることで、施用した窒素が消費されて、後半に草丈が伸びる時期には、窒素が使い尽くされていることで、倒伏が予防できます。
窒素の量よりも、よく溶けて、根からの吸収が良く、スムーズに葉緑体になる窒素肥料を使用することが倒伏防止になります。
イネの倒伏の原因は、窒素過多ではなく、ミネラル不足にあります。根から吸収された窒素のほとんどは葉緑体をつくることに使われます。葉緑体は光合成を行なうことで、ブドウ糖を生産し、ブドウ糖はお米の収穫部分であるデンプンになります。窒素はタンパク質の原料であり、植物体内のタンパク質のほとんどが、葉緑体の中で、ブドウ糖を生産するための酵素をつくるために使われています。問題は葉緑体は、窒素だけではつくることができず、マグネシウム(苦土)やマンガン、鉄、銅、亜鉛などのミネラルが必要不可欠であること、また、葉緑体をつくるためには、ブドウ糖が原料の炭水化物もたくさん必要です。
根より窒素が吸収できたとしても、ミネラルや炭水化物が不足していた場合、イネは葉緑体をつくることができず、根から吸収した窒素を吐き出すこともできないので、まずは、葉の中の細胞の液胞の中に貯蔵することになり、液胞が肥大することで、細胞が引き伸ばされて、その結果、葉はたるむことになります。液胞の肥大で、細胞自体が肥大し、これによりセルロースでできている細部壁も引き伸ばされて薄くなってしまします。薄い外壁では葉を立たせることができず、葉が垂れてしまうのです。
葉緑体をつくることができなかった窒素は節のところにある茎の細胞をつくる「介在分裂組織」に集められ、茎の細胞をつくるために使われます。茎の細胞には葉緑体がすくなく、つくりやすいこともあり、短期間でぐんぐん伸びます。イネ科の植物は、細胞分裂を行う生長点を、動物に食べられないように、地面すれすれの所で生長し、花を咲かして花粉を飛ばすのに有利になるように、花が咲く準備として茎を伸ばして高くなります。窒素が乏しい自然生態系の中では、古くなった葉の葉緑体を分解して、茎を伸ばす細胞をつくる窒素源とします。もともと葉緑体をつくるためのミネラルや炭水化物が少ない場合、葉緑体の寿命も短くなり、古い葉緑体の分解も促進されて、多くの窒素が茎を伸ばすために使われてしまいます。
イネは酸性土壌でも、育てることができますが、酸性土壌は、カルシウム(石灰)が不足していることがあります。イネの茎が折れないのは、細胞のひとつひとつがセルロースでできている分厚い細胞壁で支えられているためです。セルロース自体はブドウ糖を鎖状につなげたものなので、光合成がしっかりできていれば、つくることができます。しかし、セルロース同士をつなげて強度を上げているのはカルシウムです。セルロースの鎖を束ねてつくられたセルロース結晶体同士の隙間は、ゼリー状のペクチン酸で満たされており、このペクチン酸がカルシウムイオンを架橋することで、構造が維持されています。
土壌のカルシウムがイネに吸われて、土壌中から失われて、カルシウムが不足していて、酸性土壌になってしまっている場合、イネは茎の強度を高めることができず、倒伏し易くなります。
(5)V字稲作の考え方
一時期、化学肥料栽培は「V字」、有機栽培なら「への字」と言われていたことがあります。V字も、への字も窒素の肥効を表したものです。
「V字」というのは、イネが本来持っている特性から考え出されたものです。「イネのことはイネに聴け」の格言は、1911年に東京農業大学の初代学長となった横井時敬氏の言葉です。イネの生き様は、人間の都合で変えてしまうことは不可能です。よってイネの生育に人間が合わせていく必要があります。人間はあくまでサポートするしかありません。イネは葉と茎をつくる栄養生長によって、土壌の窒素成分をすべて吸い尽くしてしまいます。よって幼穂がつくられ花が咲き、実が充実するという生殖生長の時に窒素が不足してしまいます。1穂あたりの着粒数を増やすためのも窒素が必要で、1粒あたりの重さを重くする。実の大きさを大きくするためにも窒素が必要です。しかし、花が咲いたとき、穂が出た時には、すでに土壌中には窒素は残っていません。このため穂肥・実肥と2回追肥して収穫量を増やすという技術が開発されました。それが「V字稲作」です。はじめに施用した基肥窒素はイネに吸収されてゼロになる。そこで穂肥・実肥と追肥して窒素をV字回復させるということを表現したものです。穂肥は株本に穂の子ども(幼穂)ができはじめたときに窒素を1.5㎏/10aほどを施用し、幼穂の細部分裂を促進させて着粒数を増やすというものです。実肥は、実の大きさを大きくするための窒素です。こちらも1.5㎏/10aほどを施用します。実の登熟に伴い、葉の中の葉緑体が分解されて、葉緑体を構成していた窒素やミネラルが、実へ送られます。これにより葉緑体は崩壊してしまい、もうそう以上デンプンをつくることができなくなってしまいます。実肥は、窒素を補充して葉緑体の崩壊を防止し、収穫のその日まで、ぎりぎりまで、しつこく光合成を行なうための窒素の追肥です。
への字というのは、地力が夏季、温度の上昇と共に高まり、秋になり温度の低下と共に低くなることを表現したものです。なぜ? 地力が夏季に温度の上昇と共に高まるのか?その理由は、土壌中の細菌の活動が温度上昇と共に高まり、細菌の活動が活発になることで、土壌中の有機物がより多く分解されて、有機酸や有機酸に溶かされたミネラルがイネに共有されたり、細菌のつくる生理活性物質が、細菌が死ぬことで、土壌中に放出されたりすることで、イネに供給されるからです。堆肥などを施用して、有機物が多い有機栽培の土壌では、夏季に地温の上昇と共に、細菌の活動が活発になり有機物が分解されて、さまざまな栄養成分が土壌へ放出されます。これを活かした栽培をするということは理にかなったことです。
化学肥料栽培は「V字」、有機栽培なら「への字」というのは、少し間違いがあります。イネの生育から考えた適切な窒素施肥は「V字」、自然生態系の窒素肥効の形は「への字」となります。
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